022)信頼
私とソラがホテルへ戻っても、先に帰り着いているとばかり思っていた皆の姿は無かった。
三十分ほど経っても、戻って来る気配がしない。
「まずいな」
私に聞こえるかどうかというくらいの声で呟いたソラ。顔に緊迫感が漂っている。
「紬生さんは、部屋で休んでいてください。私は皆さんを探してきます」
「私も行くわ」
「いえ。これは私の仕事ですから」
「元はと言えば、私のせい。私が体調を崩したから」
「そんなこと、紬生さんが気にすることじゃありません。とにかく、紬生さんはホテルに居てください」
一人で探すより、二人で手分けするほうが、と言い掛けて思い直した。知らない土地では足手まといなだけ。
いそいそと出て行ったソラは、一時間ほどして一人で戻って来た。
「まだ、誰も帰っていませんか」
ラウンジを見渡し、落胆している。私が頷くと、カウンターへ腰を預けて、疲れたように両手を顔に当てた。
発端は私にあると思うと、声をかける勇気も出ない。
このまま皆が行方不明にでもなったら、それも私のせいだ。そうなったらどうしよう。
私の心細さが伝わったのか、ソラはふと顔を上げると、大丈夫ですよと小さな笑みを見せた。
もう一度、探して来ますと言って出て行こうとするソラを、せめて見送ろうとしていた時、話し声が聞こえてきた。地上に続く階段へ通じる扉の向こうからだった。
「あら。やっぱりもう戻っていたのね。紬生ちゃん、体調はもういいの?」
扉を開けて入って来るなり、詩葉さんがソラと私を見て言った。
何だか上機嫌だ。
「皆さん、ご無事ですか」
詩葉さんに続いて賑やかに戻って来た面々は、ソラが心配していたなんて思ってもいない様子。
「ビーチに行こうってことになって、皆で寄って来たんです」
「行きに、あんな綺麗な海を見てしまったから、間近で見たいなってことになってね」
「もっと近いかと思ったら、結構遠くて。もう、一歩も歩けない」
ソラの気も知らずに、好き勝手に話している在斗と波江野さん、明日美の態度に、私は段々腹が立ってきた。
ソラに一言謝ってよと言いたい。だけど、こうなったのは、私に起因しているという後ろめたさもある。結局、何も言えなかった。
「宙香さんはどうしました?」
黙って座っている舘谷さんにソラが問い掛けた。
そう言えば、宙香の姿が無い。
「あの方は、まだ海にいると思いますよ。砂浜が気に入ったみたいでしたから」
冷たい言い方だった。舘谷さんは口数が少ない上に表情も乏しい。何を考えているか分からない人だけど、彼の宙香に対する想いが透けて見えた気がした。
「帰りましょうと、声は掛けたんだけどね。いくら呼んでも、海を見たまま振り向きもしないから、私達は先に帰ることにしたんだ」
言い訳をするように波江野さんが訴えた。
「どこの海ですか。もう日も沈みますし、様子を見に行って来ます」
在斗に場所を聞いたソラは躊躇なく出て行った。
『牡牛跳び』に否定的だった宙香のことも、ちゃんと心配している。ソラは信頼に値する人だと思った。




