015)モヤモヤする
「ソラ」
呼ぶ声に振り向くと、さっきまで横のテラスに居た巫女王が、私達のすぐ後ろに立っていた。
さっと、膝をついて頭を下げたソラ。と同時に、私達にも同じようにしろと言うように手を動かす。
御神体と初めて対峙した時のように固まっていた私達も、ソラの仕草に倣って急いで膝をついた。
皮膚に薄い電流が流れてくるような感じがするのは、巫女王が近くに来たせいだろうか。
巫女王に何かを話し掛けられ、ソラが現地の言葉を返している。
巫女王の顔を仰ぎ見るのは許されない雰囲気があった。下を向いていたから表情は分からなかったけど、穏やかな話し声だ。祝詞を唄い上げていた時とは少し違う。
しばらくして会話が止んで、自然に身体の緊張が解けた。恐る恐る顔を上げた私の目に映ったのは、ゆったりと歩き去って行く巫女王の後ろ姿だった。
「彼女が巫女王? ソラは巫女王と知り合いなの?」
興奮気味に、ソラに尋ねたのは明日美。
「彼女はクリティネ。十二代目の巫女王です。私は普段、アテンダント業務の無い時は、クリティネの教育係をしてます」
「巫女王に仕えてるの? 私もやってみたい!」
感激した様子で、明日美は瞳をキラキラさせている。
「教育係よ、明日美ちゃん」
詩葉さんのニュアンスには、明日美には到底無理だという心情が含まれているように聞こえた。
「教育係の仕事はあくまでも手段です。皆さんのような旅行客を自然に案内できるよう、普段から宮殿へ出入りするための。ちなみに、皆さんは、東方の私の郷から来たことになってます。儀式を受けるために、遠方の国から来る人は多いので、不自然に思われません」
それでも私達以外で、アジア系は見掛けなかった。
「さっき、何を話してたの?」
「ただの挨拶ですよ」
ソラの返事に、尋ねた詩葉さんは気抜けしていた。
「巫女王は、私達に興味があるみたいだったけど」
そう言った明日美を、詩葉さんが不思議そうに振り返った。
「どうして?」
「私達のこと、時間を掛けて見てたし。えっと。誰かを探してるみたいだった」
「明日美ちゃん。顔を上げてたの?」
「そうよ。目も合ったし」
明日美は自慢気に答えた。
「もう! 高貴な方を直視しちゃダメ。ああいう時は、頭を下げてるもんよ」
詩葉さんに窘められて、明日美は言わなきゃ良かったといった感じで、首をすくめた。
「クリティネは、難しいことを言わない方なので、明日美さんは命拾いしましたね」
ソラは口元に笑みを作って、クリティネが戻って行った宮殿のほうへ目を向けている。
ソラの表情の中に、クリティネに対する愛おしさのようなものが見えた気がした。どうしてか、私の心にモヤモヤが広がっていった。




