014)伝説
巫女王の姿は宮殿のテラスの中にあった。数人の侍女に囲まれて、何かの問い掛けに答えながらも、ずっと私達のほうを眺めているように見える。
既に、中庭にいる人影はまばらになっていた。
「この島には、こんな伝説があります」
御神体を背にしたソラがガイドを始めた。
「まだこの島が、荒涼とした原野だった頃。ゴツゴツした岩肌ばかりが目立つ大地に、天空から一頭の牡牛が放たれました。水を差し出した村長の娘の前で、牡牛は黄金のオリーブの実を吐き出します。黄金は神からの贈り物だ。娘はそう考え、実の中から取り出した種を、大地を覆っている岩へ落としました。岩に溶け込んだ種は、たちまちオリーブの樹に成長します。ある日、樹の根元で休んでいた娘に神託が降りました。この樹が、黄金のオリーブの実を付けた時、全ての望みが叶う、と」
ソラは語り終えて、オリーブの樹と大岩を振り返った。
「その伝説のオリーブの樹が、こちらの樹だと信じられています。伝説の舞台は現在から遡って、三千年前と言い伝えられていますから、それが本当ですと、この樹は樹齢三千年ということになります」
島の伝説は初耳だったけど、御神体が樹齢三千年というのは、信者なら誰でも知っている。この伝説がネタ元だったらしい。
「この樹は私達の時代では、どこにあるのですか?」
そう聞いた詩葉さんと一緒に、きっと皆が、ソラの回答に期待したと思う。
「存在しません」
バッサリ切るように、ソラは答えた。
「少なくとも、宮殿の遺跡から見付かっていないのは確かです。どこかに移植されているかもしれませんが、もしそうだとしても、探し出すのは不可能でしょう」
考えてみればそのはずだった。もし、未来に御神体が存在するなら、わざわざタイムトラベルなんて、しなくても良かったことになる。
『旅立ちなさい』と宇咲代表に言い渡された時も、その後も、私は意識の領域全てを使って叫んでいた。
嫌だ、と。
ただただ怖かったから。
だけれど、意識下でどれだけ叫んでみても、私の気持ちを汲み取ってくれる人などいるはずもない。
てっきり、一緒に来ると思っていた代表が、未来へ残ると聞いた時はさすがに暴れ出しそうになった。だけど、土壇場で一人だけ皆と違う主張をする勇気も出ない。結局、システマティックに進んで行く流れに逆らうことはできずにここへ来た。
私達がここへ来たということが、未来で御神体が見付かっていない証明でもある。




