013)巫女王
私達は御神体の前で、他の人々と共に胡座を組んで座った。
中庭全体に敷き詰められた大理石の床が、日の光を照り返してくる。
眩しい。
しばらく目を細めていると、横笛の音に重なるようにして弦楽器の音が加わった。
何かが始まる。
正面の政を行う建物から、六人の少女が静かに出て来た。
どの子も、まだ十に満たない歳のようだ。お揃いの刺繍が施された衣装を着て、少し縮れた髪を貝殻やビーズで飾っている。
それぞれに、緑色をしたオリーブの実の入った器を掲げ持ち、御神体の前に設けられた祭壇まで進んで行く。
役目を与えられ、意気揚々と目の前を通り過ぎて行く少女達を、私は羨ましく眺めた。
あのくらいの歳の頃は、私だって自由だった。自分が興味の示すモノに正直でいられた。楽しかった。世の中を明るく見ていた。
だけど、そんな私は、ママには受け入れてもらえなかった。
『恥ずかしいから、外で喋らないで』
今まで何度も、ママに言われてきた。
同じことを言われ続け、変わってると思われることに過敏になってしまった私。ママがいない所でも、自分が何を思っているのか、何をしたいのかが表に出せなくなった。
それでも普通に物事が進んで行く日常に、私の意思は必要無いと悟らされた。やがて、『正しい』が分からなくなった。
二十歳にもなって、半分くらいの年齢の、少女達の自信に溢れた姿と自分を比べて引け目を感じている。
つまらない人生だ。この先も私はこのままで生きていくのだろうか。
全てに納得して訪れた場所ではないけれど、実は密かに期待している。心の奥にこびりつくように宿っている卑屈さが、牡牛跳びの儀式に参加することで溶けて無くなることを。
旋律が途切れ、乾いた音のする楽器が打ち鳴らされた。
一人の女性が、双頭の斧を抱えた二人の男に守られるようにして、どこからともなく現れた。
ピリッとした緊張感が場を包む。女性の出現で、中庭の雰囲気が一変したのが分かった。
女性は私と同じくらいの年齢。大きな頭飾りを着け、襟元を色鮮やかな宝玉で飾っている。両手には黄金の笏杖を握り、床を踏み締めているのは黄金のサンダル。
笏杖の上部が、クネクネと曲がっているところを見ると、蛇を象ってあるのだろう。
他の少女達とは違う特別な存在だというのが、身なりからだけでなく、放つオーラが示していた。説明されなくても、彼女が巫女王なのだと確信できる。
巫女王が厳かに祭壇の前へ跪くと、他の少女達も巫女王の後に続いて地面へ膝を付き、一斉に両手を空へ掲げた。
しばらくの沈黙が流れた後、巫女王の祈祷が始まった。
耳に入ってくるだけで心が震えるような心地良い波長が、祝詞を唱える巫女王の口から流れてくる。
半分眠っているような、ふわふわした感覚に浸っていた私は、周りの人達が立ち上がり始めるまで、祈祷が終わっているのに気が付かなかったほどだった。




