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全知全能の神、全知全能を失い、地上に落ちてのんびり暮らそうと思ってましたが、今度は魔王にやられそうなので、再び全知全能を目指します  作者: 作者名未定


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第4話「魔力ゼロじゃが、何か問題でも?」

学院初日。

まず最初にやることは——

また、あの儀式じゃった。

学院というものは、

村から歩いて半刻ほどじゃった。


石造りの建物が三棟。

中庭に木が一本。

門のところに白髪の教師が立っておった。


わしの全知が静かに告げる。


かの教師の名はゼム。

六十二歳。この世界では十二分に生きておるわい。

魔力は中の上といったところかう。

二十年この学院で教えておる。

その前は・・・まあ、経歴はどうでもよかろう。


特筆すべきは——

厳格。例外を嫌う。

ほう。

ワシはどう対応されるのやら。お手並み拝見じゃわい。


「名前を言いなさい」

「エイナです」


隣の女の子が答えた。


「ヴィン」


わしが続けた。


ゼムがわしを見た。

一瞬、何かを確かめるような目じゃった。


「ヴァルディス家の子か」


ほう。ワシの素性を知っておるのか。

まあ、”元”神童じゃからのう。


「元は」

「……元は、とは」

「今は違う、ということじゃ」


ゼムが何か言いかけて——

止めた。


「入りなさい」


教室に二十人ほどが集まった。


六歳から七歳。

どの子も新しい服を着て、

少し緊張した顔をしておる。


わしはエイナの隣に座った。


「緊張してる?」


エイナが小声で聞いた。


「しておらん」

「わたしはしてる」

「なぜ」

「はじめてのことだから」


わしはそれを聞いて、

少し考えた。


一万年ぶりに、はじめてのことをしておる。

じゃが緊張というものが、

まだよくわからん。


「緊張とは、どんな感じじゃ」


エイナが、きょとんとした顔をした。


「……心臓がどきどきするの」

「ほう」


わしは自分の胸に手を当てた。


どきどきは——しておらん。


これは、身体の問題か、

それとも一万年で緊張を失うたのか。


「どきどきしてないの?」

「しておらん」

「すごいね」

「そうでもない」


最初の儀式は、魔力測定じゃった。

水晶玉が教壇に置かれた。

ゼムが淡々と説明する。


「順番に触れなさい。

 光る色で魔力の系統がわかる。

 光の強さで量がわかる」


一人目が触れた。

水晶が青白く光った。


「水系。良好」


二人目。

橙色の光。


「火系。良好」


エイナが触れた。


水晶が——淡い金色に光った。

これまでの誰よりもまばゆい。

教室がざわりとした。


「……光系。量は——多い」


ゼムが少し眉を上げた。

エイナが席に戻ってきた。

頬が少し赤かった。


「金色じゃったのう。」


わしが言うと、

エイナは照れたように目を伏せた。


「なんか、恥ずかしい」

「なんでじゃ?」

「みんなが見てたから」

「見られて恥ずかしいことは、

 しておらんじゃろ」


エイナが、ちょっとだけ笑った。

わしの番が来た。

水晶玉の前に立った。


教室の視線が集まるのがわかった。


全知で、既に答えはわかっておる。

これほどまでに、空しい全知なかろう。


わしは水晶玉に触れた。

透明なままじゃった。

教室がしん、と静まり返った。


ゼムが眉を寄せた。


「もう一度」

「何度やっても同じじゃ」

「……黙りなさい。もう一度」


二度目も、三度目も。

水晶は澄んだまま。


ゼムが深く息を吸った。


「魔力……なし。

 この学院の授業の大半は

 魔法の実技じゃ。

 君には——」

「知っておる」

「……」


「それでも来た」


ゼムが、わしをじっと見た。


後ろの席から声が上がった。


「魔力ゼロって、初めて見た」

「ヴァルディス家って

 魔法貴族じゃなかったっけ」

「追放されたんでしょ、あの子」

「かわいそう」

「かわいそうじゃないよ、

 いても意味ないじゃん」


子どもたちの反応も、寸分違わず予想できた。

なのに、わしには魔力がない。


わしは振り返らなかった。

ゼムが手を叩いた。


「静かに」


教室が静まった。


ゼムがわしを見た。

何かを測るような、

長い沈黙じゃった。


「……座りなさい」

「わかった」


席に戻ると、

エイナがわしを見ておった。


「大丈夫?」

「何が」

「さっき、いろいろ言われてたから」


わしは少し考えた。


「気になっておらん」

「……ほんとに?」

「ほんとじゃ」


エイナが、何か言いたそうな顔をした。

でも言わなかった。


ただ、小さく頷いた。

午前の授業は魔法理論じゃった。

ゼムが黒板に図を書いた。


「魔力は身体の中にある。

 これを外に出す訓練が基本じゃ。

 魔力の流れは川の流れと同じで——」

「違う」


教室が静まり返った。


ゼムが、ゆっくりわしを見た。


「……なんと言いましたか」


「川は一方向に流れるが、

 魔力は循環する。

 止まった池に近い。

 外に出すのではなく——

 池の水を形にする、が正しい」


沈黙。

ゼムが、じっとわしを見た。

長い、長い沈黙じゃった。


「……どこでそれを」

「本で読んだんじゃ。」

「どの本だ。

 この村の図書館には

 そこまで高度な書物はないはず・・・」

「旅の途中で」


ゼムの目が細くなった。


「六歳が旅の途中で」

「うん」


また沈黙じゃった。


教室の子供らが、

わしとゼムを交互に見ておる。


ゼムが、静かに言うた。


「……続きを言いなさい」

「え」

「池の水を形にする、の続きを」


わしは少し考えた。

ここまで言うたなら——

まあ、仕方ない。


「川ではなく、なぜ池なのかというと

 循環するための器に池の形が必要じゃ。

 器が大きいほど魔力が多い。

 使ってしもうて、水を無くなりゃ器が空く。

 

 空いた分だけ、雨や川から水が入りまた溜まる。

 溜まる時に池の周りは削れ、深さが増し

 溜まる水の量が増えていく。

 

 これは魔力にも当てはまる。

 魔法を使い、空になった器の中に魔力が溜まり

 徐々に広がっていき、魔力が鍛えられる

 

 それが、理じゃ。例外はない。」


ゼムが、しばらく黙っておった。


「……正しい」


教室がざわりとした。


「魔力ゼロのくせに」


誰かが言うた。


わしは振り返った。


声の主は——

後ろから二番目の席の、

大柄な少年じゃった。


「魔力ゼロが何を偉そうに」

「偉そうにはしておらん」

「でも先生に向かって

 『違う』って言っただろ」

「間違うておったからじゃ」

「……!」


少年が立ち上がりかけた。


ゼムが手を上げた。


「座りなさい、ドレン」


少年——ドレンが、

悔しそうな顔で座った。


ゼムがわしを見た。


「君の言ったことは正しい。

 ただし——」

「態度が悪かった。わかっておる」

「……わかっておるなら」

「次からは『先生、一つ確認ですが』

 と前置きすることにしよう。」


ゼムが、長い息を吐いた。


「……そうしなさい」

「わかったのじゃ。」

「あと、学園の中では先生には”はい”と使いなさい」

「わかっ・・・・はいじゃ。」

「じゃも不要。」

「はい」


エイナが、隣で

小さく笑うのが聞こえた。

この展開は全知では分からんかった。


なぜ、エイナが笑うのか。

純粋に人を笑わせたのがいつぶりだったかのう。


***



帰り道、エイナと並んで歩いた。


「すごかったね」

「何が」

「授業中のやつ。

 先生が驚いてた」

「驚かせたかったわけではない」

「でも、みんな驚いてた」

「そうじゃのう」

「魔力ゼロなのに

 魔法のことを一番知ってるって——

 なんか、変だね」

「変か」

「変。でも——」


エイナが少し考えた。


「面白い、と思った」


わしはそれを聞いて、

少しだけ止まった。


面白い、か。


一万年、面白いと言われたことがなかった。

全知全能に、面白みはない。

わかりきったものに、面白みはない。

ただ、面白いの意味がわからない。


「それは——どういう意味じゃ」

「え?」

「面白い、とはどういう意味じゃ」


エイナが、きょとんとした顔をした。


「わからないことが、

 いっぱいあるから」

「わからないことが面白いのか」

「うん。知らなかったことが

 わかった時って、嬉しいじゃない」


わしは歩きながら、それを反芻した。

知らなかったことがわかった時の、嬉しさ。

一万年、知らないことがなかった。


それは——どんな感覚じゃったろう。


「ヴィンは、知らないことってある?」


わしは少し考えた。


「ある」

「何が?」

「今、お主が何を考えておるかを、わしは知らん」


エイナが、ぱちりと目を開けた。

それから——頬が赤くなった。


「な、なんで急にそんなこと聞くの」

「知りたいからじゃ」

「……」


「知りたいのに、わからないのが——

 面白い、ということかのう」


エイナが、しばらく黙っておった。

それから、小さく言うた。


「……ちょっと違うと思う」

「どう違う」

「それは——面白いじゃなくて——」


エイナが、言葉を探した。


「もっと、ドキドキする感じ」


ノイズが、また静かになった。


一瞬だけ。

でも、確かに。


わしは何も言わなかった。

その言葉に返す言葉も知らん。


エイナと触れ合うと、

知らんことが増えていき

知りたいことも増えていく。


人の心は、魔法よりも難解じゃ。


初めての帰り道は村の道を、並んで歩いた。

夕陽が、二人の影を長く伸ばしておった。




後書き

お読みいただきありがとうございます。

魔力ゼロで入学して、

授業では先生に向かって「違う」と言う・・・

我ながら、なかなかの空気の読めなさです。

でも間違ってはいないので、許してください。

「面白い」「続きが気になる」と思ったら、

ブックマークと評価をいただけると、

ゼム先生の胃が少し楽になるかもしれません。

次話、学院生活が本格的に始まります。

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