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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第一部 まだ青き出藍の鏡
21/68

インハイ予選進行中



 インターハイ予選は順調に進行していった。

 魔法競技にはバディ戦が無いものもある。その中で、シオンが個人で参加している競技に、ワイズマンズレポートと呼ばれる競技がある。


 これは他の魔法競技と少し毛色が違い、直接戦い合うような要素は少ない。霊子庭園で起こる様々な魔法現象に対して、出題者の求める解を導き出すのが主題となる。

 出題の内容は多岐にわたるためジャンルは絞れず、また対人戦では互いに出題をし合うという要素もあるため、問題製作の能力も問われる。

 ただ、実技能力よりも知識を問われるこの分野は、クラスに関わらず活躍できるという一面もある。


 実際、予選でシオンが一番苦戦した相手は、研究科の生徒だった。


「いやあ、久能くん。調子はどうだい」


 ワイズマンズレポートの試合が一通り終わったところで、その強敵だった生徒が手を振りながら近づいてきた。

 泉チハル。

 キツネ顔の腹に一物ありそうな雰囲気の少年で、他の生徒たちからは敬遠されることも多いようだったが、シオンは彼の人柄をそれなりに気に入っていた。


「シングルは、ワイズマンズレポート以外は全滅だ。さすがに基礎能力が違いすぎて勝てない。泉の方は、シューターズで活躍していると聞いたけど?」

「あはは。あれだけは、幼馴染が好きで練習に付き合わされていたからね。昔取った杵柄ってやつさ。さすがにインハイ本戦で活躍できるほどじゃないよ」


 チハルとは、ワイズマンズレポートで互いに制限時間内に問題を出し合い、引き分けとなっていた。その広い魔法知識と理論を組み立てる論理力は、シオンから見ても一年生とは思えないものだった。

 研究科に所属するチハルに、シオンはそれとなくアヤネの話を聞いてみたが、授業で見かけたことは無いそうだった。保健室登校をしている生徒がいるという話が上がったので、おそらくそれがアヤネのことだろう。


「神童の復活、って騒がれるのも嫌だろうけど、やっぱりどうしても気にしちゃうんだよね」


 そう、チハルは内心の見えない笑みを浮かべながら言った。


「実技クラスの方でも、内心穏やかじゃないと思うよ。だって、僕らの世代はみんな、まだ魔法を覚えたての頃に、同年代で化け物みたいな子供がいるって聞かされ続けてきたんだから。今思えばあれは、大人たちの焦りだったんだと思うけどね。だいぶ時代が変わったとは言え、魔法界はやっぱり権威主義だから、自分たちの権利を脅かす子供が出てきたら、どうにかして自分のところの子供を育てなきゃって意気込んじゃうから」


 最も、そうやって不相応な期待をかけられた子供からするとたまったものではない。

 実際にそれで潰れてしまった才能はいくつもあるのだろう。そもそも、シオン自身が無理な魔法実験で再起不能に陥っている。現実を恣意的に改変する魔法現象は、一歩間違えれば自分自身を破滅させる危険な技術である。


「神童に負けられない。そう気を張りながらも、神童に敵うはずがないと諦める気持ちもある。そんな複雑な心境がそこかしこで見えるよ」

「……実物は大したものじゃない。そもそも、今の僕の実力はたかが知れている」

「でも、知識や精神を失ったわけじゃないでしょ? それはやっぱり、十分脅威だと思うな」


 そう言うチハルの表情は、どこか諦観に近い感情が滲んでいた。


「君とワイズマンズレポートでしのぎを削れた時、僕もずいぶんやるようになったとちょっとうぬぼれたけど、でもやっぱり、あと一歩が届かないことも悟らされたよ。その一歩がどこにあるのか、僕にはわからないんだ。本当に困ったことにね」


 そんなことはない、と言おうとして、シオンは口をつぐんでしまう。

 その感情は多少なりとも理解してしまうからだ。だって、シオンは本当の天才のそばに身を置き、常にその劣等感に苛まれていたのだから。


「実際さ、どうなの?」

「どうって、何がだ」

「カニングフォークの魔法実験。君たちは、本当に失敗したのかなって」


 神童たちは四年前、自然魔法を扱う実験に挑んで、再起不能の重症を負ったとされている。


自然魔法(カニングフォーク)にも色々あるよね。広義には、大地のマナを自分の体に取り込んで事象を改変することをカニングフォークって言う。その効果の範囲はピンキリだし、生半可なことじゃ、あの神童が再起不能になるなんてことないはずだ」


 魔法士は通常、自分で生成した魔力(オド)を身体の中で循環させ、自分の体を擬似的な一つの世界と定義して情報界に接続する。自己の中の法則を改変してから世界の法則を操作する。これがオーバークラフトの理屈である。


 それに対してカニングフォークは世界の事象を直接改変する。その時に使うのが、大地に満ちている大源(マナ)であり、魔法士はマナを身体に取り込んで世界と一体化し、情報界へと接続する。この時、自身の一部であるオドならばまだしも、大地のマナは劇薬に近く、身体に取り込むだけでとんでもない負担が襲うことになる。


「オーバークラフトには改変の限界があるけど、カニングフォークにはその限界がない。マナを扱える限り、どんな魔法現象も起こせる。場合によっては、ファントムや霊子災害だって太刀打ちできないくらいの魔法だって――」

「それは机上の空論だ」

「うん、そうだね。でも、それを空論じゃなくて実現させた魔法士はそれなりにいる」

「僕がそうだっていうのか?」

「そうかも知れないって願いたいだけかも知れないけどね」


 いたずらっぽくチハルはキツネ顔を笑わせて見せる。

 それに嫌気を指しながら、シオンは煩わしそうに言う。


「そもそも、一部の人間が持っている固有能力(パーソナルギフト)――超能力だって、突き詰めていけば自然魔法の一種だ。カニングフォークだからって、全部が全部特別なわけじゃない」

「ああ、僕の幼馴染にも魔眼持ちがいるから分かるよ。ああいうパーソナルギフトは、暴走すると大地のマナを取り込んじゃうんだってね」

「……だから、珍しいことじゃないんだ。ただ僕たちは失敗した、それだけだよ」

「はは、ごめんよ。ちょっとしつこかったよね」


 素直に謝りながら、それでもと、チハルは続ける。


「それでも期待しちゃうのは仕方ないんだよ。だって、あの神童がただ失敗して表舞台から去っただなんて、思えないんだもん。勝手に期待して勝手に失望されるのは、本当に迷惑だって分かっているんだけどね。でも――無謀な期待をかけられてきた子供からすると、その原因になった神童には、何かがあってほしいって、そう思っちゃうんだ」


 それはとても不躾で、だけれども、とても純粋な思いだった。

 チハルの言葉に、シオンは無言で返すことしか出来なかった。


 ※ ※ ※


 順調すぎるほどに、シオンとミラは活躍を重ねていた。

 多少のやっかみや嫉妬もあったが、大半が見くびってきたバディが、快進撃を見せる姿は、自然と話題を呼んだ。


 ミラは喜んだが、シオンは性格上、そういった周囲の評判を気にするたちではなかったので、淡々と次の試合の準備を進めていた。そんな中で、どうしても目立つ名前を見る。


 一年首席、明星タイガ。


 そもそもシオンは、この学園で誰よりも自分が弱いと確信している。だからこそ、仮に相手がトップだろうと中級だろうと、全力で当たるし対策を考える必要があると思っている。だからこそ、その名前を聞いても、特に強く意識するわけではなかった。

 ただ、挑戦者として準備をする。


 しかし――結果的に、シオンはこの一年首席の生徒に大敗北を喫することとなる。


この回で登場した泉チハルは、別のシリーズの登場人物でもあります。

シオンが参加を諦めたソーサラーシューターズという競技にまつわる物語は、またいずれこちらでご紹介できたらと思います。

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