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ウィザードリィ・ゲーム オルタレーション  作者: 西織
第一部 まだ青き出藍の鏡
17/68

お嬢様と騎士


 バトルロイヤル競技である『メイガスサバイバー』には、二つの種目がある。


『ポイント争奪戦』

『サバイバル戦』


 前者は、それぞれのプレイヤーが契約したファントムにポイントが付けられており、ファントムが身につける印を壊すか、ファントムを直接倒すことでポイントを取得できる、というものだ。最終的にそのポイントの高さによって勝敗が決する。


 後者はもっとわかりやすく、プレイヤーが霊子体を維持できなければ負けというルールだ。こちらで肝心なのは、ファントムがやられても敗北にはならないという点にある。

 ポイント戦は、ファントムを倒す競技。

 サバイバル戦は、魔法士を倒す競技、となる。


 ミラが直接戦闘に向かないということもあって、ポイント戦よりもサバイバル戦の方が戦略は広がると考えたシオンは、『メイガスサバイバー』のポイント戦は見送っていた。


 ポイント戦の予選。

 クラスメイトである草上ノキアは、こちらの方に参加していた。


「ノキアちゃん、大丈夫かな?」


 予選を見学に来たハルノは、オロオロと落ち着かない様子で競技場を見下ろしている。

 そんな彼女に、レオが不安を笑い飛ばすように言う。


「あいつ、実力だけは実技科でもおかしくないから、大丈夫だろ。心配なんていらねぇよ」

「うん、そうだけど……」


 わずかに言いよどんで、ハルノが言った。


「ノキアちゃん、本気、出してくれるかな?」

「……あー、そっちの心配か」


 三人の間に苦笑いが浮かぶ。

 草上ノキアという少女の一番の問題は、そのむらっけにある。

 とにかく面倒くさがりの彼女は、まずもって真面目に授業を受けようとしないし、やることなすこと全てが投げやりだ。


 必ず二種目以上は予選に出場するという学校側の決め事に従って参加こそしているが、嫌々参加している以上、真面目に取り組むとも思えない。


 そんな心配をよそに試合が開始される。

 フィールドは、樹海と表現するしかない緑に覆われた土地だった。

 自身の何倍もの高さの木々に覆われた、薄暗いステージ。三キロ四方のフィールドで、都合十人のプレイヤーと、そのファントムたちが、試合開始とともに動き出す。


 その中でただ一人、草上ノキアだけは初期位置で仁王立ちして動こうともしない。


「ちょ、あいつ何やってんだ」


 思わずといった様子で、レオが画面を見ながら言った。口にこそ出さなかったが、シオンとハルノも同じ気持ちである。


 そんな三人をよそに、フィールドでは戦況が刻一刻と変化する。

 木々の間を縫うようにしてぶつかり合うファントムたちの激しい戦闘と、それをサポートする魔法士たちの動き。互いの全力をぶつけあう戦いが、あちこちで繰り広げられる。


 その渦中にいながら、ノキアは近くの大木に背を預けて、微動だにせずにいた。その全身からはやる気の無さがほとばしっており、一人だけ場違いにしか見えなかった。

 そんな彼女を絶好のカモと思ったのか、とあるファントムがノキアに向かって襲いかかる。

 メイガスサバイバーのポイント戦において、魔法士はポイントの貯蓄の役割を持っている。自身のファントムが敵を倒した時、そのポイントはプレイヤーである魔法士に与えられる。


 霊子体が維持できなくなることが敗北条件ではあるが、ポイント争奪の場合、プレイヤーかファントムのどちらかが残っていれば参加資格は残る。ただし、魔法士が先に負けた場合、ポイントの加算ができなくなるため、ファントム自身の初期ポイントだけが成績になる。


 故に、試合の立ち上がりで、プレイヤーを狙うのは戦略として王道だった。

 ファントムの持つ大槍がノキアに突き立てられようと迫る。

 しかし――その大槍は、すんでのところで弾き上げられた。


「お嬢様、少しは身構えてください」


 スーツ姿の麗人であるデイム・トゥルクは、そんな苦言を漏らしながら、手に持った刀剣を振るって襲い来るファントムを押し返す。

 そんな彼女に、ノキアは片目をあけて言う。


「必要ないさ。私には君がいる」

「その評価は光栄ではありますが、いくらなんでも横着なのでは?」

「信頼と言いなよ。物は言いようさ」


 ノキアは顎をしゃくりながら、悠然としてトゥルクに指示を出す。


「魔力の心配ならいらない。全力を出して構わないよ。思う存分、君の性能を見せてくれ」

「了解いたしました。では、参ります!」

 

 そう宣言した後、トゥルクの姿が掻き消えた。

 移動による風圧で、周囲に砂埃が舞う。

 目のも止まらぬ速度で動き出したトゥルクが、次に人の目に止まった時には、すでにファントムを一体仕留めていた。


「が、ぁ」


 トゥルクの持つ槍に貫かれたファントムは、信じられないといった表情で彼女を見下ろしている。それに対して、トゥルクは無造作に槍を抜くと、すぐさま姿をかき消す。

 彼女のステータスを事前に知っている人からすると、その速度はあまりにも馬鹿げていた。並のファントムですら視認することが難しい、神速の動き。それによって、あっさりと二体のファントムが犠牲となった。


 速度では敵わないと悟ったのだろう。とあるファントムは、全身を硬化させて音速に近い速度のトゥルクを迎え撃とうとする。

 最大まであげられた耐久値。如何にトゥルクが素早くとも、相応の膂力と武器の力がなければ、その身体を破壊するのは難しいはずだ。


「――『プロモーション』」


 それに、トゥルクは一旦動くのをやめて構え直す。

 先ほどまで手に持っていた槍はなくなり、代わりに大剣が握られていた。実用性があるとは思えない、無骨で巨大な、鉄の塊のような大剣だ。持ち上げるのでも一苦労するであろう巨大な剣を、トゥルクは軽々と持ち上げる。


 そして――ただ、振り下ろした。


 衝撃波巻き起こり、情報圧が周囲を蹂躙する。

 まるで隕石が落下したかのような衝撃が撒き散らされる。その膂力に、周囲の誰もが目を見開き、驚愕の表情を見せる。


 全身を硬化させたファントムも、その一撃には耐えることが出来なかった。その傷口は、斬るというよりは叩き潰されると言った様子で、無残な姿を見せた後、霊子体を霧散させる。

 トゥルクは大剣を手放す。新たにその手には、弓と矢が握られている。


「――『プロモーション』」


 彼女は高い木の枝に飛び乗ると、弓を構える。

 狙いを定めるのは数秒。ほとんど無造作に構え、そのまま二キロ先にいるファントムへと矢を射る。二度、三度と狙撃を受けたファントムは、たまらないと逃げ出す。


 トゥルクが弓矢をおろした時、下で動きがある。

 ノキアに迫る影があった。

 魔法士の一人が、ノキアと直接戦闘を行おうと迫っていた。ポイント戦において、プレイヤーが他のプレイヤーを倒した場合、そのポイントは全て倒した側に移譲される。

 トゥルクはすでに四体のファントムを倒しているので、そのポイントを狙うプレイヤーが居てもおかしくはない。

 その魔法士は、駆けながら二体の狼を召喚する。影で作られた狼は、闇に紛れるようにしてノキアを喰らわんと襲いかかる。


 それでもノキアは、つまらなそうに目を閉じて、微動だにしない。

 獲った、と敵の魔法士は思ったことだろう。


 ――だが、甘い。

 草上ノキアの契約したファントムは、彼女の家が用意した隠し球である。例えどんなに主にやる気がなかろうと、ファントム一人で事足りるように調整されている。


 自身の主が襲われるところを見たトゥルクは、冷静に足場を確認する。木の上で、足場は小さいが安定した枝を確認した後、小さくつぶやく。


「――『キャスリング』」


 次の瞬間、ノキアとトゥルクの姿が入れ替わった。

 先ほどまでトゥルクが居た枝の上に、ノキアが現れ、そして――ノキアが居た位置に、トゥルクが姿を現す。


 襲いかかる影の狼を、トゥルクは手に持った大槍で一掃した。

 続けて、その槍を細い投槍に変化させると、間髪入れずに投擲する。そこまでの動きには、全くと言っていいほど無駄がない。呼吸する間もないくらいの短い時間に反撃をくらい、相手の魔法士はあっさりとその身体に槍を受けた。


「では、お嬢様」


 木の枝に腰掛けているノキアに向けて、トゥルクは何でもないように言う。


「あとしばし、お待ちください」

「うん、まどろんでるから頑張って」


 ひらひらと手を振るノキアに、トゥルクは頭を下げてまた姿をかき消す。そこからの試合展開はとても一方的なものとなった。

 五分後、試合は圧倒的な結果で幕を下ろした。


「あー、疲れた疲れた」


 大きく伸びをするノキアと、そばで粛々と従うトゥルクの二人が、控室から戻ってくる。


 ハルノとレオが興奮したように彼女を出迎える。ミラも、ひたすら「すごい!」を繰り返しながらトゥルクの周りをグルグルと回っていて、トゥルクの冷静な顔を困らせていた。

 褒められるのがくすぐったいのか、ノキアは仏頂面で言う。


「別に、私の実力じゃないさ。トゥルクが強いんだ」

「いえ。そんなことはありませんお嬢様。貴女の魔力供給があったからこそ、わたくしは全力をつくすことが出来ました」


 高ランクのファントムになればなるほど、行動の魔力消費は大きくなる。無駄を少なくしたり、その消費を管理するのも契約した魔法士の役割だ。ノキアは面倒くさがりだが、それゆえに極端な消耗を嫌う。その辺りの調整は、むしろ率先して行っているのだろう。

 先ほどの試合を見ていて、シオンは一つの考えを口にする。


「チェスか? 見た所、対応するコマに合わせてステータスを変動させていたな」

「……ご明察」


 苦笑を漏らして、ノキアは言う。


「あのステータスは本当だよ。ただ、ステータス変化のスキルなんて、珍しくもないだろう?」


 スキル作成の際、瞬間的にステータスを底上げさせるようにアクティブスキルを作るのは一つの定石だ。

 しかし、トゥルクの場合は全てのステータスが変化していた。


 戦い方によってステータスを変化させる。

 それが、デイム・トゥルクというミドルランクファントムの戦い方なのだ。


 みなまで言うな、というノキアの視線に、シオンは了解して口を閉じる。ただ、強力なライバルを前に、より一層緊張感が増すのだった。



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キャラクターステータス デイム・トゥルク


挿絵(By みてみん)


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