聞き上手 沖田総司
「総司」
土方歳三が部屋を覗いた。
「何です?」
「具合はどうだ」
「もう、すっかり元気だけど」
「よし。じゃあ今日は武田の相手を頼む」
「……え?」
「あいつ、調子に乗って話がますます長くなってるんだ。俺は、とても相手できん」
「げっ」
「暇でつまらんと言ってたな。ウインウインだろう」
土方は、さっさと行ってしまった。
◇
ほどなくして、襖が開いた。
「沖田さん、具合はいかがですかな」
武田観柳斎が薬湯を持って入ってきた。
脈を診て、額に手を当てる。
「うん、悪くありません」
仕事は実に手際がいい。
「では、昨日の続きを」
(来る)
武田は座布団に正座した。
「さて、人の身体というものは実に興味深く――」
一刻後。
「――というわけで、中国では古くより……」
さらに半刻。
「――薬草の性質というものは……」
沖田は律儀に相槌を打つ。
「なるほど」
「ほう」
「そういう考え方もあるんですね」
武田は気分よく話し続けた。
◇
武田観柳斎が席を立ったのを見て、永倉新八が襖を少し開けた。
原田左之助が呆れたように言う。
「総司、平気か? 長いが……」
「うん。まあ、今んとこ暇だし、意外とおもしろいよ」
「本当か?」
その時、武田が戻ってきた。
「では、続きを……」
「ハイハイ」
武田は嬉しそうに座った。
「では、今の話をまとめると?」
沖田は少し考えた。
「無理をせず、水を飲んで、養生しろ――ですね」
「その通り!」
永倉が目を丸くする。
「ちゃんと聞いてたのか」
「俺なら十分で寝る」
原田が呟いた。
◇
夕方。
土方が戻ってくると、井上源三郎が言った。
「トシ。ずっと総司に観柳斎の相手をさせているのか」
「大丈夫だろう。暇つぶしだ」
土方は襖の向こうを見る。
「……まだ話してるな」
中から武田の声が聞こえてきた。
「――ですから、古今東西の医術を比較しますと……」
「なるほど」
「ええ」
「それで?」
沖田は軽やかに相槌を打っている。
土方は、ため息をついた。
「俺はもう、武田の話を聞きたくねぇ」
「トシ、お前、失敗したぞ」
井上が苦笑した。
「総司のジジ乗せ力を甘く見たな」
「ジジ乗せ力?」
「総司は試衛館で、年長者に揉まれて育った男だぞ」
井上は襖の向こうを指した。
「観柳斎を気持ちよくして、ますます喋る男にしちまうぞ」
土方は黙った。
襖の向こうでは、武田の得意げな講義が続いている。
「――つまり、養生とは身体だけの問題ではなく――」
「なるほど」
「それで?」
「ほう」
「……総司」
「観柳斎 育っているだろう?」と井上
土方は、ゆっくり目を閉じた。
「……俺は、何を頼んじまったんだ」
沖田の笑い声と、武田の得意げな講義が、いつまでも襖の向こうから聞こえていた。




