↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/9

副長は忙しい



「もういい」


土方歳三は帳面を閉じた。


「俺がやる」


「それはありがたいが、大丈夫か?」


近藤勇が目を丸くする。


「仕方ねぇだろ。死ぬほど忙しいから、やりたくねぇんだが」


土方はため息をついた。


「伊東みたいに講義してる暇もねぇ」


「新八みたいに酒を飲ませたら、隊が潰れる」


少し間を置く。


「二番隊、永倉の次は三番隊の斎藤にやらせると言うのもなあ」


「斎藤は年齢が若すぎる。荷が重いだろう」


土方は、ふっと目を伏せた。


「ああ……総司が元気ならな」


「総司だって若すぎるだろう。それになあ、総司はなんでもするっとやるから、ついつい仕事が重くなるんだ。もともと丈夫な方じゃないんだぞ」


と井上。


「わかっている」


◇


翌朝。


「起きろ!」


土方の怒声が屯所に響いた。


「朝飯だ!」


「副長、まだ眠いです……」


「寝ぼけてる暇があるなら飯を食え!」


「はい!」


隊士たちは慌てて膳につく。


「水は飲んだか!」


「はい!」


「汗をかいた着物は替えろ!」


「はい!」


「腹が痛くて動けねぇ奴はいるか!」


「……はい」


「何人だ!」


「三人です!」


「ちっ」


朝から晩まで、土方の怒鳴り声が屯所に響いていた。


◇


昼。


沖田総司が縁側で横になっていた。


「総司」


井上が心配そうに声をかける。


「総司、ちゃんと布団に寝なさい」


「ここが気持ちいいんです」


「顔が赤いぞ。また熱があるな」


「やだなー。ないですーー」


総司は、ごろごろと縁側で転がっている。


土方歳三は迷わなかった。


すぐに額へ手を当てる。


「医者を呼べ」


「えっ? そんな、大袈裟!」


ほどなくして、町医者が往診に来た。


「大丈夫です。暑さに当てられただけでしょう」


「だが、涼しい場所で寝ていたんだぞ」


土方は納得できない顔をする。


医者は沖田の様子を見ながら続けた。


「ひどい暑気あたりでしたからね。こういうふうに、しばらく繰り返すことがあるんですよ」


「……結構な熱だぞ」


「ええ、そうですね。こまめに冷やしてあげてください。しばらくは揺らぎがあるでしょう。ですが、日にちとともに良くなります」


医者は軽やかに微笑んだ。


「焦らず身体が戻るのを待つことですな。なに、秋には稽古もできますよ。お大事に」


「……秋?」


土方は絶句した。


――長ぇ。


◇


夕方。


近藤が、またも腹を押さえていた。


「……歳」


「何だ」


「下痢が止まらん」


土方の目が細くなる。


「昨日、何食った」


「いや……そんな、大したもんじゃ……」


「近藤さん」


「いや、健康のために、ちょっと鰻を」


土方は眉をひそめる。


「ちょっと? 一人前だろうな?」


「えっ、いや、そのぉ〜」


井上が黙って指を三本立てた。


「三人前? 一人でか?」


「この、すっとこどっこい!」


「だって鰻……うまくて、箸が止まらなくて」


「知るか!」


土方は額を押さえた。


自分の仕事だけでも手いっぱいなのだ。


それなのに、腹を壊した近藤の面倒まで見なければならない。


頼みの沖田は、秋まで養生。


伊東は理屈だけ。


永倉は酒。


斎藤は腹巻き。


「……やっぱり、衛生係なんぞ兼任するんじゃなかった」


土方は深いため息をついた。


「忙しすぎる……」


そして、ふと思った。


――俺が過労になって倒れたら、元も子もねぇよな〜。


土方は静かに顔を上げた。


「……誰かに押しつけるしかねぇな」


その目が、ゆっくりと細くなる。


◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。