斎藤一、お腹を冷やすべからず
京の夏は暑い。
屯所の庭では隊士たちが稽古を終え、汗だくで井戸水を浴びていた。
「生き返るーっ!」
永倉新八が桶をひっくり返し、大声を上げる。
「斎藤、お前も!やるか?」
永倉が振り返ると、そこにはいつもの斎藤一が立っていた。
「ついさっき 身体を、ふき清めたばかりだ」
「そうか…」
襟元はきっちり閉じられ、首には白い手ぬぐい。
羽織こそ脱いでいるものの、着物は一分の隙もない。
「……お前、暑くないのか?」
「暑い。」
「暑いんじゃねぇか!」
「少し涼しい格好をしたらどうだ、」
斎藤は真顔のまま続けた。
「腹を冷やす。」
永倉は固まった。
「……腹?」
「腹だ。」
「いや、今の話で腹どこから出てきた!?」
その時だった。
ひらり、と風が吹く。
着物の裾が少しだけめくれた。
永倉の目が 点になる。
「お前、それ…もしかして 腹巻きか」
隊士たちが無言で、一斉に振り向いた。
「夏ですよ!?」
斎藤は平然としていた。
「腹は冷やしてはならん。」
「だが、真夏だ.それ そんなに大事か?」
「大事だ。近藤さんを見ろ、一日中 厠でうなっている。
アレはいかん」
土方歳三と近藤勇が通りかかった
「騒がしいと思ったら……何やってんだ。」
永倉が斎藤を指差した。
「副長! 斎藤、腹巻きしてます!」
「見りゃ分かる。」
「知ってたんですか!?」
土方はため息をつく。
「こいつ、剣は強いが腹だけは弱ぇ。」
「副長!」
斎藤が珍しく声を荒らげた。
「言うな。」
「本当のことだろ。武士の嗜みだよな」
「……ああ、俺は 努力で腹を律している。」
誰ぞのように 盛大に下したりはせぬようにな」
近藤勇
耳が少し赤い。
暴飲暴食がやめれず 厠を独占する男
その夜、
土方は近藤に「誠」の字入り腹巻きと、土方家家伝の止瀉丸を差し入れてやった。
武士の 情である…。




