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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 誕生

 勢いに任せた感はあったが、一世一代のプロポーズをしたお兄さん――赤毛の少女は照れながら立ち上がる。

 内面ではメルニアが笑っており実に愛らしい。


 先ほどまでただの陽の光だったものが、今や二人を祝福しているかのようだった。


 胸の内は暖かく、今ならなんでもできそうなくらい気分は高揚していた。


 二心胴体の二人は幸せを噛み締めて、メルニアはもはや全ての問題を忘れ、今まさに幸せの絶頂だった。


 ところがお兄さんはそうではなかった。

 メルニアを大事に思う気持ちに嘘はない。

 落ち込むメルニアを元気付けたいというのも、本当だ。

 しかしながら、そこに憐れみが無かったのかと言えば……。


 そして、それをメルニアに伝わってしまったのではないか?


 彼の中に、少女に対して申し訳ないと言う気持ちが、僅かながら生まれていた。



 赤毛の少女の相手は、肉の体を持たない。

 抱きしめたくても、その望みは叶わない。


 そこで彼らは気がついた。


 《《結婚生活ってどうするの?》》


 完全にその場の勢いでのプロポーズと、返事だった。

 だが、後悔はしていない。

 だって、幸せなのだから。


 この瞬間、二人の記憶は瞬く間に共有され、お互いの新婚生活事情というものを知る。


 草原のそれに倣うのであれば、夫の両親の移動式住居の近くに新しいそれを用意する事となる。

 古い習慣では略奪婚が一般的だったため、その名残として今では、新婦は最初嫌がるフリをする。

 そして、夫は戦争へ行く者であるため、嫁は家の差配の一切を取り仕切る権限を持つ。


 日本のそれは今更紹介するまでもない。


 どうしようかと二人は考えたものの、結局は体は一人であることに気がついた。


 そう、一人暮らしである。


 昼も夜も一人なのだ。


 だが彼らに悲壮感もなければ、寂しさもありはしなかった。


 なぜなら、愛する人と一緒だからだ。


 二人の前では、いかなる問題も問題ではない。


 二人は、そう感じていたのだ。


 赤毛の少女が振り返るまでは。



 ※※※※



 少年は丘を見上げ跪く。

 丘の上ではまさに【神子の顕現(オプトムトゥヒスィカ)】がなされているのだ。


 神々しくも美しい、まるで聖なる炎をその身にまとったかのような、煌めく赤毛を持ち、見慣れぬ装束――神の衣だろうか――を纏い躍動するたび、内なる威光までもが世界を照らすかのように感じられた。


 その所作その舞い、すべてに、まさに神が宿り、御伽話に聞いた【神子の顕現(オプトムトゥヒスィカ)】で間違いないと少年は確信したのだ。


 彼は感動に打ち震えていた。

 集落の大人たちが「精霊が現れた」と騒いでいたのを聞きつけた少年は、相棒の騎獣に跨り、追いかけた。

 途中何度も見失うも、幸運なことにそのたびに見つけることができた。

 それはまるで、精霊の意思により招かれたかのようだった。


 そしてついに少年は、時代の目撃者となったのだ。



 気がつけば少年の後ろには大勢の民たちが、彼と同様に跪き、丘を見上げていた。

 大人たちが自分と同じように跪き、神子を崇めている。

 彼の確信は、もはや揺るぎないものへと変わっていた。



 神子の足下。

 一番近い――とはいえ数十メートルはある――場所にある彼はこの後、その運命を大きく変えていくことになる。



 ※※※※



 赤毛の少女は、幸せを胸いっぱいに感じながら振り返る。

 ハフネたちもそろそろ起きる頃のはずだ。

 丘を降りようと見下ろすとそこには、初めて見る少年を筆頭に、老若男女、大勢の集落の民が跪き顔を伏せている。


 《うお!?こ……これはいったい?》

 《……わかんない……けどもしかしたら、この丘って神聖な場所だったのかも!》

 《メルにゃんでも分からないの?》

 《だって、氏族によって祖霊の眠る場所は違うから……》

 《……ここってお墓だったってこと!?》

 《かもしれない!》


 降りて行こうにも下る道は、大勢の民で囲われており、反対側へ行くことも考えられたが、お墓かも知れないと思うと、再び登るのは気が引けた。


 《お墓登ったの怒られるよね?》

 《氏族によっては……鞭打ちなんてことも……》


 《前世の体ならまだしも、この身体には傷つけたくないな……うーん》

 《お兄さん……そうだ!あれ!ほら! 水の龍!》

 《……その手はあったか!》



 ※※※※



 少年が何やら気配を感じ、顔を上げると、そこには龍に乗った神子が、今まさに天へと昇るところだった。



 ※※※※


 《やっばい!気付かれた!》

 《お兄さん!早く早く!》


 《うわぁ!こっち見た!急いで!》

 《うおおおお!》



 ※※※※



 少年が思わず声を上げた。

 大人たちは、それに気がついて龍が飛び立つのを目撃する。


「おお!神子様だ!」

「神子様が龍を従えておいでじゃ!」

「きゃー!神子様ぁ!」


 民は手を振って歓喜の声を上げている。



 ※※※※



 《ヒェ!?めっちゃ起こってる!?》

 《あわわわっ 全速全速!》


 ※※※※



 赤毛の少女を乗せた水の龍は、ふわりと浮いたかと思うとあっという間に衝撃波を残して空の彼方へと消えていく。

 その衝撃波は地表へと降り注ぎ、民の身体を貫いた。


 体の全細胞を揺さぶるその衝撃に、彼らは魂の衝撃をすら感じたのだ。


 天へ続く白い線が、龍の軌跡を示していた。

 吸い上げられた大気が、突風となって彼らの間を駆け抜け、まるで神子の後を追うように舞い上がる。



 赤毛の少女はただ個人的な理由でこの場に立ち、勘違いの末に、ただ申し訳なさから急いでこの場を後にした。

 しかし、これを目撃した者たちにとってはこの光景は、まさに神子誕生そのものだった。


 この日を境に、この場所は名前を持ち、歴史に名を刻むこととなる。

 龍と神子が消えた方角を見つめながら少年は、運命を感じていた。


 少年は語りだす。

 神子の誕生と、その神子が太陽を生み出したのだと。


 神子が世界へ祈りを奉げ、太陽は昇るのだと。

 少年の言葉には、熱がこもり次第にお伽話と混ざっていく。

 そしてその熱は、群衆へと伝播し、消えぬ炎となって彼らの胸に宿るのだった。


 ※※※※


 そのころの赤毛の少女は、人目を避けて地上へ戻り、宿へと額に汗して走っていた。


 《やばいやばい!早く帰らなくっちゃ!》

 《あははは!でも、うふふふ!あははは!なんだか楽しいね!》

 《確かに!あははは!》

 《あはははは!》


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