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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 視線の先

 

 トマトダヨを厚く切り、香りのいいオイルで焼き、塩をふったものを四人で同時に頬張った。


「んん!甘い!これなら食べてくれる人も増えるかも!」

 ユルフィが甘さに驚き、これなら食べる者も増えると、これからの可能性に喜んだ。


 かたやサンディアは、この料理方法を提案した少女の成長を嬉しく思っていた。

「武辺一辺倒だったメルニア様が……このように料理を……サンディアは嬉しゅうございます!」


「……」

 そんな二人を見てドヤ顔のハフネと、その三人をよそに次の料理を考える赤毛の少女――お兄さんであった。



 結局、トマトダヨで腹を満たした四人はそれを昼食とし、そのまま微睡むように食休みへ。


 《お兄さん料理できたんだね》

 《まぁね。一人暮らし……でもないけど、美味しいご飯を食べさせてやりたい奴もいたしね》

 《ふーん……女?》

 《……どっちだと思う?》

 《うわぁ意地悪な顔ぉ……お兄さんと出会ってから、ずっと一緒にいるけど、女の影は見えないんだよなぁ……てことは、男だね!》

 《はははっ 正解……親友だったんだ。こっちへ来る時も、そいつと一緒にいたんだけど……無事だといいなぁ》

 《日本の親友同士って料理を振る舞いあうの?》

 《仲が良くてね――お互いの家を行き来してたし、泊まったりもしたから、そこで料理の腕を競い合ったりしたんだよ》

 《……さっき無事だったらって、何かあったの?》

 《少し外出してる時に火事があってね、俺はそれを見て急いで帰る時に事故で……ここに来たって感じ》


 (お兄さん……辛そうなのに、無理して明るく……優しい――けど、辛い時は辛いって甘えてもいいのに……私じゃ受け止められないのかな……)


 やがて食休みに付き物の睡魔が、二人を夢の中へと誘った。




 そこは日本の地方都市。

 見慣れた風景。

 知ってる空気。


『ああ、これは夢だな』


 あまりにも懐かしいその風景が、今はもう存在しないものだと、彼は知っていた。

 だから、これは夢だと……


 ――よう、元気か?


 そんな声が聞こえた気がした。


 背後から聞こえたその声は、きっとあいつだろうと思えた。

 ただ――振り向いてはいけないと、直感が告げていた。


 声がまとう空気があいつだった。

 自信があった。


 しかし――

「なんだか随分可愛らしい声だな。冗談のつもりか?」


 ――いや? そういうお前こそなんだよその格好は?


『あ?いつもの格好だが?』


 ――そうか。 ありがとうな。

「何がだよ」

 ――色々と。


『お前こそ元気か?』

 ――ああ、おかげさまでな。

『……今度、飯でも食おうぜ。紹介したい人がいるんだ』

 ――ああ。楽しみだ。


『いつ会える?』


 気がつけば風景は草原だった。


 答え(いらえ)はない。


『おい?どうした?』

 周囲を見回しあいつを呼ぶ。

 心臓が早鐘を打ち胸を締め付ける。


『おい!大丈夫か! おい!』

 霧が立ち込めていく。

 それは濃くつま先すら見えなくなっていく。

 『おい!』



「おい!」

 自分の出した大声に驚いて、目が覚めた。

 周囲を見回せば、ハフネが心配そうに覗き込んできた。

「大丈夫かい?」


 ここはミルユルの城、赤毛の少女の自室だった。

「ああ……うん」

「変な夢でも見たのかい」


 ハフネが少女の煌めく赤毛を指で梳いていく。

「……夢、そうだね……よくわからない夢だったよ」


 髪を梳かし終えたハフネは、水差しから水を入れて差し出しながら夢の内容について聞いた。


「親友の……よくわかんないな、女の子の声だったし」

「ふーん……その口ぶりだと、アタシでもなくて……」

 ハフネはそう言いながら、指先で少女の胸を――心臓を突いてみせた。

 そして、少女の瞳を覗き込みながら「違うんだ?」


 それはハフネでもメルニアでもないのかという意味だと、お兄さんは理解した。

「うん、わかんない……聞いたことあるようにも思うけど、違う気もするし……うん、多分違うから」


「ふーん……まぁ私は良いよ。メルがいいなら」


 《お兄さん、それって浮気なんじゃないの?》

 《知らん声聞いただけで浮気って……嘘だろ》


「まだ眠いんだね?横になっときな」

 ハフネはそう言って、内面会話に集中して心ここに在らずといった表情の少女を横たえさせた。



 ※※※※



 日が変わり六鍵を見送ったメルニアは城内を散策していた。

 お兄さんのリクエストだった。


 いろんな場所を見て回ったが、赤毛の少女を見る目はどこに行っても、以前のものとは違っていた。


 訓練場や兵士詰め所では、以前にもまして武勇の誉れ高く、英雄視され、羨望の眼差しを受けた。

 そこには悲劇の経験者への同情が、混ざることもあった。


 一方で洗濯場や侍女詰め所では、赤毛の少女の身に起こった悲劇ばかりが話題となっており、同情の他に、憐れみや、侮蔑――穢れを見る目が多かった。

 そしてそういった視線であるほど、それを隠そうとはしなかった。



 城は旧区域と新区域に分かれていた。

 新区域は人も多く、旧区域は比べて少ない。

 自身に向けられる視線に気がついたお兄さんは、あえて旧区域の案内を頼んだのだった。


 旧区域は岩山だった所を掘り進めたもので、新区域はその外に石造りの城を増築してできたものだった。


 《へぇ……地下の温泉も旧区域?》

 《そうだね。余りにも増改築を繰り返したから、全容を把握してる人はわずかだろうね》

 《迷子になったりしない?》

 《私は大丈夫だよ。明かりさえあれば、現在地はだいたいわかるからね》

 《へぇ!頼もしいね!》

 《お兄さんも覚えてね?》

 《ははは……努力します》


 そんなゆっくりとした時間を数日過ごして、赤毛の少女の元に父ラウガルから呼び出しがかかった。


 《執務室遠いね》

 《居住区域とは離れてる方がいいこともある。しょうがないよ》


 落ち葉が舞う中庭を通り、兵士が訓練するグラウンドを横に見ながら進み、幾つもの階段を上がったり下ったりしてようやく執務室のある区域へとやってきた。

 目の前には黒く大きな扉が立ちはだかっており、軍中枢とそれ以外を分けていた。


 扉には精緻な彫刻がされていた。

 それはミルユルの旗と同じモチーフであったが、より壮大な物語が彫られていた。


 衛士に取次してもらっている間、少女はその彫刻を眺めていた。


 開け放たれた窓からは、冬の気配を乗せた風が入り込み、少女の体を震わせた。


 その震えは、寒さによるものだったが、お兄さんにはなんとなく、嫌な予感を覚えさせるものだった。


 そして、扉は開かれる。


 

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