助太刀、プレイヤー VS エリアボス。part.2《たけまる・ミミア》
役割を決めた後、己の盾の状態を見る。先の戦いで蜥蜴をボコボコに殴ったから、盾の表面もボコボコに歪んでいる。
「鉄製なのにな」
だがまだまだ使用できると、表面を剣を持った手でひとなでして構える。
「僕が敵を引きつけるから、3人はその間に回復してくれっ!2人とも行くぞ!」
プレイヤー3人と、緑、ヴェステルさんに声をかけるのと同時に走る。目指すは敵の目の前。
僕が引き付けないと、あのプレイヤー達は離脱できない。今も狙われているのは少年プレイヤーだ。
「〈筋力上昇〉っ、〈耐久力上昇〉!」
探索者という初期職は、基本的な魔法やスキルしか覚えられない。しかもそれらは別の職業に就いていても覚えられてしまう。故に普通はすぐに一次職に切り替えるプレイヤーが多い。初期職にこだわり、維持し続けるメリットがないからだ。
緑は盗賊ギルドに行ったみたいだし、ホルマリンさんは薬師ギルドに行ったらしいし、他のフレンドもそんな感じ。
強いこだわりを持ってメイン職業・サブ職業にセットしている人は、自分の周りにはいない。
そこまで分かっていてなぜ変えないのか。それは、僕にとってはメリットがあるからだ。
探索者は全ての武器に対して、僅かながらもプラスの補正を受ける。勝つためにはどの武器でも使う。そんなプレイスタイルなので、多くの武器を扱うにはこの初期職がちょうど合っていた。
ちなみにここまで語っておいてあれだが、探索者をセットしているのはサブ。メインには一次職の下級傭兵をセットしている。探索者の上位互換と言える職業。
これもまた探索者と同じ補正を受けれる。つまり、ダブルで全武器に対してのプラス補正を受けていることになる。なんて素晴らしいことか。あ、今バカにしたね君?笑ってやがる。
あのヒステリックが、また人の心の中を覗きに来やがったよ。
【あーっ、おっかしっ。っぷ、何また1人で語ってんの?】
強いんだぞ二重の補正は。てかプライバシー!勝手に覗くんじゃねえヒステリックめ!
【誰がヒステリックだってっ!もう1回言ってみなさいよっ!】
こういう時真面目にもう一回同じこと言うと、さらにヒートアップすんのよな。
てことで無視。まだわーきゃー言ってるけど無視。これから戦闘なんで無視。
「〈傭兵の攻め方〉っ、〈傭兵の守り方〉!」
走りながら合計4つのスキルを唱えた。どれも攻撃力と防御力を上げるもの。
え?名前がダサいって?仕方ないだろう。こういうスキル名なんだから。
【ダサくて悪かったね!私の担当じゃないし別にいいけど。嫌なら無詠唱で発動すればー?】
声に出さなきゃ、やる気出ないんだよ。そういうの必要な人なの。
てかヒステリックなんでこんな時に普通に会話してくるんだよ。あ、また騒ぎやがった。無視無視。
そんな準備ややり取りをしながら、敵の目の前へ向かい無事到着。亀とプレイヤー達の間に入った。
突然の乱入者に亀の視線がこちらを向く。
こちらも亀から視線を外さずに、後ろにいる疲労困憊といった感じのプレイヤー達に声をかける。
「後は僕が引き継ぐ!早く回復しに行きな!」
「っはい!」「お願いし⋯はあはぁ⋯ぁす!」「⋯ふぅ⋯お願いします!」
「前だけ見てな亀野郎!」
回復しに戦闘から離脱するプレイヤー達に攻撃がいかないよう、声を張り上げる。
遠ざかる足音を聞きながら、亀がどう行動を起こすか見逃さないように注視。
「うおっ、なんだ?緑か?」
すると突然亀が爆発し黒煙が上がった。張り詰めた状況での爆発。びっくりした。
その攻撃に反応して、亀の視線が緑の方を向いた。やはりそっちの攻撃か。
「だがそっちには攻撃させん!〈注目〉!」
さあやろうぜ亀よ。盾を構えてニヤリと笑う。
♢♢♢♢♢
「っはい!」
「お願いし⋯はあはぁ⋯ぁす!」「⋯ふぅ⋯お願いします!」
私もおにいも海斗もとにかく走る。息が切れても足を動かし続けて、何とか戦闘を離脱。
巨大な亀の攻撃が届かないであろう所まで来ると、足が限界を迎え座り込んでしまう。草がスカートの中に入ってしまいチクチクするが、しばらくは動けそうにない。
「っはあはあ⋯はあはあ」
草むらに大の字に寝そべり、胸を上下に動かすおにいもまたしばらくは動けそうにない。
汗で顔にへばりつく髪をそのままに、重い頭を動かして海斗の方を見る。彼は片膝をついて呼吸を整えていた。一見すぐに戦闘に復帰できそうな感じだが、その足は震えていて確実に疲労が溜まっている。立つことにも時間がいりそうだった。
私も視界を遮る程に乱れた髪を整えるか払い除けるかしたいが、その気すら起きない程に疲れている。草むらにダラりと垂れさせた手を、あまり動かしたくないと思ってしまう。
だが、いつまでもそうしてはいられない。
少し休憩した後、いつもより重く感じる手を動かして、魔法の袋を漁る。取り出したのはHP回復ポーション。
レア度が最低値で安くても、ちゃんと回復してくれる。初心者の私達にもってこいのもの。マラトスで買っておいてよかった。
試験管のような形をしたそれの蓋、コルク栓をキュポッと抜いて口の中に流し込む。
「っゴボッ⋯ゲッホゲッホッ⋯ゲホッ⋯はぁふ⋯」
液体が変なところに入って咽せてしまった。中身が少し零れ出たのを見て勿体ないなぁと思う。その分でいくつ回復したかと。
そんなことを言っても零れた分は戻ってこないので、諦めて残りを飲み干す。地面に零れたそれを舐めとるほど尊厳を捨てたくはないので。
鑑定で体力がきちんと回復したことを確認して、疲労でだるい体に鞭を打って無理やり立ち上がる。
HP回復ポーションでは疲労は回復しない。こんなことになるなら、疲労回復ポーション買っておけばよかった。少し高くて手を出さなかったことを後悔する。
しかしないものはないと頭を左右に振りすぐに気持ちを切り替えると、短杖を構えた。
おにい達もHPを回復して既に立ち上がっている。息もだいぶ整ってきたようだ。
「よし、回復したし早く戻らないと」
「そうだな。望愛は大丈夫そうか?」
「おにい、ゲームで本名言っちゃダメなんだよ?そろそろ言い慣れてね。一文字足しただけなんだから」
「あ、ああ悪い。なんか言い慣れなくて」
私の頭上に表示されているのはミミアという文字。捻った名前でも何でもない普通の名前。
ゲームを始めた時に特に何も浮かばなかったので、覚えやすいと言うだけでこれに決めた。
このゲームを始めたのはつい最近のこと。私とおにいにはもう1人年の離れた兄がいるのだが、その兄がプレゼントだと言って高いVRヘッドギアを1台ずつそれぞれにくれたことがきっかけで、このゲームを始めるに至った。
母親の再婚でできたその社会人の義兄は、ちょっと変わり者だがとても優しい人。私達兄妹と仲良くなりたいと言う気持ちで溢れていた。
運がとてもいいらしい義兄は、デパートの抽選でVRヘッドギアを当てたものの、自分は持っていて必要ない。ならばと、私達にあげて一緒に同じゲームをやり仲良くなろう。そう思ったらしい。
そこまで全部話した上でVRヘッドギアをくれた。何かそれが可愛くて、クスッと笑ってしまったのを覚えている。
義兄が一緒にくれたゲームはR15作品の「Mystery Of Life3」。シリーズ物らしいけど、特に前作をやっていなくても楽しめると言われた。
R15と言いつつ私達兄妹はその年齢に達してはいない。とはいえあくまでも推奨なだけで、やってはいけないとは明記されていないし、公言もされていない。あくまでもそのくらいの年齢で始めるのがオススメですよと言っているだけ。それ故にその面白そうなゲームを始めた。
おにいと義兄と一緒に遊ぶのが基本だが、こちらは学校があるし義兄も仕事がある。学校の課題を終わらせて一緒に遊べるのは僅か2時間程。
徹夜しても親は何も言わないだろうが、義兄がそろそろ寝よう?と諭してくるのでそのくらい。何か裏切るのもなと、それを守って徹夜はしていない。
一緒にできない日は、同じゲームをしていた幼馴染の海斗と行う。そうして楽しんでいたのだが、今日は厄日だった。
いつも通り第1エリアでレベル上げしていた時のこと、海斗⋯カイトがそろそろ森の方に行かないかと言い始めた。
私もおにいも、そろそろ挑戦したいなと思っていたので頷き賛成。この場にレベル25の義兄もといホルマリンがいれば、さらに安心して戦えることだろうとは思った。だが今日は友達との約束があるらしく欠席。残念。
そうして森へと向かっていたのだが、突然大声を上げながらこちらへ走ってくる人が現れる。
そのプレイヤーは後ろに何やら大きなモンスターを連れていた。少なくない砂煙を上げるそれは大きな亀。
最初はそのプレイヤーがテイマー系統の何かの職業で、一緒にランニングしているだけなのかと思っていたのだが、叫んでいる内容を聞いた時それは違うのだと悟った。
そのプレイヤーは「そこを動くな。的になってくれ」要約するとそんなことを言っていた。
自分勝手なその発言に眉をひそめ、巻き込まれたくないと私達は必死に走って逃げる。が、そのプレイヤーの方が足が速かった。亀もそれと同じくらい速く、すぐに追いつかれる。
プレイヤーはわざわざ追い抜きざまに舌打ちをすると、3人の中で一番弱そうだと思ったのか、私の足に自分の足をひっかけて転ばせそのまま逃げていった。
転びはしたが草の上、多少は痛くとも動けない程ではない。私が転ばされたことに気づき、おにいもカイトも立ち止まり振り返る。
それが運命が決定された瞬間だった。亀はあのプレイヤーから私達へと攻撃対象を変えると襲いかかってきた。
私達のレベルはまだ一桁。相手を鑑定すると二桁の20。どう考えても無謀な戦い。だが亀の方が足が速いので逃げられない。
仕方なく武器を構え戦闘へ移行。だがやはりレベル差が大きく、ステータス的にも劣っているこちらが押されるのは当然のこと。
HPも残り僅か。でも回復させてくれる時間を与えてはくれない。
「くそっ!硬すぎだろうが!」
カイトが何度目かの攻撃をするが、やはり甲羅に当たり弾き返される。攻撃しようとするとその軌道に合わせて亀が体を動かし、甲羅へその攻撃を誘導する。そのせいで攻撃があまり通っていなかった。
3人同時に攻撃すると甲羅に閉じ籠るし、頑張っても1割弱しかダメージを与えられていない。もう長いこと戦って疲労困憊。そこに亀が首を伸ばす。噛み付きだ。
「おにい!攻撃!避けてっ!」
「あっ⋯うぐぁっ⋯」
声かけも虚しくおにいは噛まれ、振り回され地面に叩きつけられた。
もうダメだ。そう思った時、後ろから声が聞こえた。
「おーい!そこの御三方ー!加勢してもいいですかーっ?」
若干間延びしたその声に、諦めかけていた心が少し回復する。助けてくれるの?と。
「っはぁはぁ⋯⋯な、なんだ?⋯精霊⋯っ?はぁはぁ⋯」
カイトが一瞬そちらを見たらしい。そこに精霊がいたのかそう口にした。
私はいつ攻撃してくるのか分からない恐怖から、一瞬たりとも亀から目を離さない。否、離せない。MPも尽きているし、攻撃を躱して生き延びるしかない。不安で短杖を握りしめる。
後ろを向いて話せないので、亀を見据えたまま助けを乞う。
「だっ⋯誰か分からないけど、お願いしますっ!」
「お願いしますっ!」
おにいも私に続き声を発した。
幸いにしてその救世主がくるまで攻撃はたったの3度のみ。命からがら生き延び、草むらへと体を預けるのだった。
〘傭兵ギルド〙
採取・討伐・護衛等、種類を問わず住民達からの依頼を受ける者達が集まる。
傭兵家業は全てが自己責任。誰かから恨みを買っても、他のギルドのように助けてはくれない。
実力主義の荒くれ者が一番多いギルド。
加入条件:ランダムに指定された低レベルモンスターを討伐し、その証明として部位を持ってくること。
〘職業:下級傭兵〙
傭兵ギルドに加入すると就くことができる一次職。
どの武器でも普通に扱うことが出来る。
使用した武器の攻撃力上昇と、モンスターを倒した際に上昇する武器熟練度はまあまあ。
就職条件:①ランダムに指定された低レベルモンスターを討伐し、その証明として部位を持ってくること。②傭兵ギルドに入ること。
〘スキル:傭兵の攻め方〙
傭兵専用職業スキル。
使用すると60秒間、自分が関与する全ての攻撃にプラス補正がかかり、攻撃力が上昇する。
リキャストタイム:30秒
〘スキル:傭兵の守り方〙
傭兵専用職業スキル。
使用すると60秒間、相手から受けるダメージを10%減少させる。
リキャストタイム:30秒
〘スキル:《筋力上昇》〙
学べば誰でも使用することが出来るスキル。
使用すると30秒間、自分が関与する全ての攻撃にプラス補正がかかり、攻撃力が僅かに上昇する。
リキャストタイム:20秒
〘スキル:《耐久力上昇》〙
学べば誰でも使用することが出来るスキル。
使用すると30秒間、相手から受けるダメージを5%減少させる。
リキャストタイム:20秒
〘スキル:注目〙
学べば誰でも使用することが出来るスキル。
使用すると180秒間、相手を強制的に自分へと注目させることができる。ただし、10秒経つごとに強制力が段階的になくなっていくので注意。
使用すると赤いオーラのエフェクトが体を包み込む。
やられる側からすると、何かオーラーを纏った強そうな奴がいるみたいな感じに見える。
リキャストタイム:60秒




