4話 凍るような寒さの中で
4話です。
東洋、いいですよね。
グラスゴーに帰ってすぐに旅の支度を始めた。
目指すギャチュンカンは気が遠くなるほど東の地にある。
そのため荷物を多くしなければならない、というのは間違いであまり重い荷物は旅の妨げになる。
それに訪れる街で物資は補給できるだろうから今持って行くのは最低限の装備だ。
例えばアンナであれば護身用の武器、私であれば魔法の杖だ。
私の魔法は水分の使用量を減らしたりなど戦闘に貢献できるものではないが、こけおどし程度の花火や閃光は出すことができる。
匪賊やよわい魔物には効果的だろう。
その他にも色々と考え持ち物はこのようになった。
マリア
魔法の杖 1
飯盒 1
火打石 1
魔法のかかった絹のマント(暖かい、丈夫、濡れない) 1
革のズボン 1
シャツ 3
下着 5セット
木製のスープボウル 1
アンナ
片手剣 1
弓 1
矢 12
革のジャンパー 1
木綿のシャツ 3
革のズボン 1
下着 5セット
木製のスープボウル
準備が終わるとすぐに資金を集め始めた。
旅の間は節約をするがそれでも生きるのに資金は必要だ。
資金集めには大きく分けて三つの方法がある。
一つ目は融資を募ることだ。
しかし、私たち、特に私は借りたお金を返すことのできたためしがない。
よってこの案は却下になった。
二つ目はものを売ることである。
しかし、チャワンに一目惚れしてすぐ買ってしまったように私にはものを増やすことは余裕だが、減らすとなると全く苦手である。
よってこれもできなくなった。
そして最後に残った三つ目は労働だ。
幸いなことにエディンバラという都市で運ばれてきた物資の仕分けと図書館の蔵書点検の仕事を見つけた。
これから三ヶ月もあれば一年弱を暮らせる分の資金を貯めることはできるだろう。
私たちは必要最低限の荷物だけを持ってエディンバラへ向かった。
◇
列車から降りるとそこは典型的な港湾都市だった。
港にはかなり大型の蒸気船が濛々と黒煙をあげ港湾労働者は忙しなく動き回る。
そんな人工的な風景が広がっていると思えば向こうでは漁船が出入りし市場では魚やが競りを行っているのが手に取るように分かるほどの活気が伝わってくる。
陸に目を向ければ三百年ものの古い建物が立ち並び、なおかつ古臭く見えないほど洗練されている。
市内の聖堂前の広場を中心に緑が並んでいる。
それは同じ商業都市であるロンドンと比べて対照的だった。
私たちは市内の古いアパートに部屋を借りていた。
ついてみるとそこの住民は私たち以外に2世帯しかいなく大家曰く、限度を越えなきゃ騒いでもいいよ。とのことだった。
部屋は二人部屋としてはかなり小さく、小さめのダブルベッドとわずかな棚とテーブルがあるだけだった。
私は夜は魔法の灯りを灯して読書をしようと思い旅行カバンには本が大量に詰め込まれているのだが本棚が無いので置くスペースもないほどの部屋だ。
「小さい部屋だね。まあ私はコンパクトでいいと思うけど」
アンナは案外このせっまい空間が気に入っているようだ。
「アンナとの距離が近づくのは嬉しいですがそれ以上にプライバシーなさすぎじゃありません?」
そうなのだ。この部屋はしっかり二人用として設計されてはいるのだがプライバシーが無さすぎる。
例を挙げるならばシャワールーム。
囲いはあるのだが部屋との境に扉を設置しないのは意味がわからない。
第一に気をつけなければ部屋に飛び散るではないか。
そのたも挙げれば気が遠くなる程あるのだ。
◇
出稼ぎの日々というのは単調なものだ。
朝早くに布団から起き出てアンナを起こさないように少し街を歩く。
そうすると朝のとても冷たい空気に頭が冷やされ冴えてくるような気がするからだ。
そして家に帰るとアンナが布団から出て身支度しているはずなのでそれを眺めながら私も外出用に着替える。
そしてパブで紅茶を飲んだ後に各々の仕事に出かける。
私の仕事はエディンバラ中央図書館という巨大な図書館で一年に一回行われる蔵書点検のアルバイトだ。
エディンバラ中央図書館は蔵書が星の数ほどあるため作業は一ヶ月以上かかる上にかなりの肉体労働なのだが報酬も正規の仕事をするよりも短期間ではるかに稼ぐことができる。
故に私はこの仕事を楽しむことができた。
仕事は午後五時くらいに終わりいつもはアパートで、買ってきた惣菜を食べるのだが今日は店で食べることとした。
アンナと街をぶらつきながら適当に決めた店に入る。
こういう時は労働者がたくさん入っている店を探すようにしている。
というのも大体その店は安くて美味しいと相場が決まっているからだ。
今日はいったのはどうやら南欧両シチリア王国料理の店らしい。
店に入って席に座り周りを見渡すとみんなパスタを食べている。
「あっ、あの…」
「注文ですか?」
問いかけると両シチリア系の男性の店主が反応した。
周りをみるような仕草で察したのか私に声をかけた。
「スパゲッティ・サルモーネ?」
急なイタリア語に私はオウム返しに聞き返してしまった。
「スパゲッティ・サルモーネ?」
それが可笑しかったのかそう言った瞬間アンナを含めた周りの客がどっと沸いた。
私は馬鹿にされてるように感じ、頬を膨らませながらアンナに聞いた。
「それでスパゲッティ・サルモーネってなんなの?」
アンナはまだツボにはまっているのか笑いながら答えた。
「イタリア語でサルモーネは鮭。つまり鮭のパスタよ。
あんた中東の言葉は分かっても南欧の言葉はさっぱりなのね」
「それなら早く言ってくれればいいのに」
不機嫌そうに言うとアンナはまた笑って返した。
「そりゃあんたの反応が可愛いからよ」
アンナは幼い子どもがイタズラに成功したときのような笑みを浮かべた。
こうなれば私は降参だ。
これ以上何を言ってもアンナは可愛いとしか言わなくなる。
スパゲッティ・サルモーネはこのエディンバラの港で水揚げされた鮭を使ったパスタでクリームソースによって味付けされていた。
柔らかい味は私の疲れた体を癒してくれるように感じた。
アパートに帰るといつ壊れるかも分からないような古い時計は十時を指していた。
普段ならこの時間になれば明日の仕事のために寝ているのだが今日は眠る気になれない。
私たちは二人でカードゲームに興じて夜が明けるのを待った。
私が大負けしたのは言うまでもない。
◇
出稼ぎの生活は瞬く間に過ぎていった。
十月上旬にエディンバラに着き、もうクリスマスとしている。
私たちはこの二ヶ月弱で銀貨400枚を稼ぐことができた。
これだけあれば節約すればギャチュンカン峰まで辿り着けるかもしれない、そんな気がしてきた。
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