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 モブンナが突きだした短剣が私の体を貫くはずだった。


 けれど、短剣が私の体に触れる前に、私は、その場から消えてしまった。


 次に現われたのは、見覚えのある場所、私が中学生になるまで暮らしていた豊柴家の屋敷、その応接間だった。


 元の世界に戻ったのだろうと、その場にいる男二人がいなければ思っただろう。


 その男達、私の父親と夫、前世のフェブルウスとディウエスだ。


 私が夫を殺す前、いや、夫が父を殺す直前の時間の元の世界に、なぜか転移し(戻ってき)たのだ。


 そう、夫が父を殺す直前の世界だった。


 夫は父に銃を向けて発砲していたからだ。


 そして、その発砲した銃弾は、ちょうど二人の真ん中に現われた私の胸を貫いた。


(……ははっ)


 内心乾いた笑いしかない。


 いつか夫を、人を殺した報いを受ける時がくる覚悟はしていたが。


 私が殺した夫が、今度は私を殺すのだ。


 それが私が受ける報いなのだろう。


「美音!」


 夫は突然何もない空間に()が現われた事よりも私を撃った事に動揺しているようだった。


 彼にかける言葉などない。


 彼が私を殺したのだとしても、それはただ報いを受けただけだ。恨みをぶつける気も、その心を慮る気もない。


 だって、私にとって重要なのは――。


 呆然としている父に目を向けた。


 さすがに、突然何もない空間から娘が現れて自分に向かってきた銃弾を代わりに受けたとなると、この男でも多少は動揺しているようだ。


 死ぬ前に、この男に言わなければならない事がある。


「……お父様」


「……美音!」


 駆け寄って来る父に、私は命尽きる前に、最期の力で言った。


「……私の部屋の本棚の奥に、お母様の日記を隠しています。必ず読んでくださいね」


 一人暮らしを初めても、結婚しても、私の部屋はそのままになっていたはずだ。


 もし、私の部屋が片付けられても、母の日記だけは保管してくれるように、信頼のおける使用人に頼んでいた。私に何かあった時、父にそれを見せるようにとも厳命していおいた。


 お母様の日記の最後のページには、私が父をどう思っているのかも書いている。


 この世で一番嫌いで軽蔑している、と。


 愛する妻からは憎悪や嫌悪という感情の一欠けらすら向けるのを厭われていた事を知って絶望するがいい。


 その様を見られないのは、本当に残念だけど。


 それが、豊柴美音としての「私」が最期に思った事だった。






 











次話から「第二部 異世界転生」になります。

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