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 これで私の人生は終わったはずだった。


 いや、確かに、豊柴美音としての私は死んだ。


 けれど、「私」の生は、これで終わりではなかった。





「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 けたたましく泣く赤ん坊の声で意識が浮上した。


 ここは、どこだ?


 私は夫に銃で撃たれて死んだはずだが?


 いつの間にか、赤ん坊の声は聞こえなくなっていた。


「あら、静かになったわね」


 甘く柔らかな女性の声が聞こえてきた。


 ぼんやりした視界に、綺麗な女性の顔が映った。金髪に藍色の瞳、彫りの深い顔立ち。どう見ても日本人ではない。


「おかーたま、ぼくにも、いもうとのかおをみせて」


 あどけなく可愛らしい声が下から聞こえてきた。


 傍に立つ幼児に向けて「私」を差し出す女性。


「私」を嬉しそうに覗き込むのは、母親と同じ金髪に藍色の瞳の二歳くらいの幼児だ。そして、幼いながら恐ろしく整ったその顔は、私が誰よりも嫌悪し軽蔑していた男の転生に酷似している。


 ここで、ようやく私は自分の状況を理解した。


 私、赤ん坊になってる!


 ベッドに上半身を起こしている「母親」に「赤ん坊の私」が抱かれている状態なのだ。


 死んだと思ったら前世の記憶を保ったまま転生したようだ。


 私の故郷の世界の別の国なのだろうか?


 それとも、私が一年ばかりいた、今も知高さんが暮らしているだろう異世界なのだろうか?


 その疑問の答えは、扉をノックし女性の「どうぞ」という声で入室してきた男を見て分かった。


 男は「私」の顔を覗き込むと「今度は娘か」と呟いた。


「うー! うー!」


 赤ん坊なので唸り声にしかならなかったが、「何で、あんたがここにいる!?」と叫んでいるつもりだった。


「私」の視界に映るのは、アッシュブロンドに灰紫の瞳の整い過ぎた美貌の男。


 前世で私が殺し、私を殺した男の生まれ変わりだ。


 彼がいるなら、ここは私が一年ばかりいた、今も知高さんが暮らしているだろう異世界なのだ。


 ものすごく嫌な予感がした。


 赤ん坊なので、まだぼんやりとしか見えないが、この部屋は、かなり広く置かれている家具も、かなり上質だと分かる。伊達に、前世で名家の娘ではない。


 そんな部屋の持ち主だろう、この女性、私の今生の母親が高貴な身分でないはずがない。


 そんな女性の傍に当然のようにいて、彼女の生まれたばかりらしい娘である「私」の顔を遠慮なく覗き込んでいるこの男は、エリジウム王国の第二王子で公爵だ。


 まさか、この男は今生の私の――。


「ええ。また父親になってくれるんでしょう?」


 普段であれば気づく「母」のおかしな言い回しに、この時の私は気づかなかった。それくらい受けた精神的衝撃が強すぎたのだ。


 やっぱり、あんたが今生の私の父親か――っ!


 私の絶叫は、やはり「うー! うー!」という唸り声にしかならなかった。


 何の因果で、私が殺し、私を殺した男と親子にならなければいけないんだ――っ!?





 と、この時は思っていたが、正確には、彼は今生の私の父親ではなく叔父だ。


 彼の双子の兄、エリジウム王国の王太子フェブルウスこそが今生の私と兄クリュセスの実の父親なのだ。


 だから、今生の母も「()()父親になってくれるんでしょう?」などと言っていたのだ。

 

 ()しくも、今生でも「あの男」と親子になってしまったのだ。


 私が誰よりも嫌悪し軽蔑していた男と――。




 





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