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 私が呆れていると、第三者の声がかかった。


「彼女の言う通りだ。モブンナ嬢」


「ペレウス様!」


 モブンナが叫んだ通り、こちらに向かって歩いて来るのは、モブンナの先輩同僚で私のもう一人の監視人、ペレウス・アエアクス公爵令息だ。


「私も上司も常々言っているはずだ。この仕事をしている以上、どんな立場や素性の人間だろうと公正に接しろと」


 モブンナは、どうやら私以外の異世界人に対しても、私に対するのと同じ態度で接してきたようだが、どれだけ上司や先輩同僚(ペレウス)に言われても態度を改めなかったのだと今のペレウスの発言で分かった。


「新人だからと上司も周囲も見守ってきたが、この先も改善が見込めないのなら解雇も考えていると上層部が言っていたぞ」


「そんな! 私のどこが間違っているんですか⁉ 人殺しが、この世界で平然と生きるなどあってはいけない事でしょう!」


「サイコパスでもない限り、人が人を殺すのは大半は追い詰められた結果だ。誰も()(この)んで罪を犯したりなどしない。だから、先程彼女が言ったように、罪人でも、この世界に害をなさない人間なら受け入れると法で定めているんだよ」


 反論したいのだろうが「でも」とか「だって」ばかりで、それ以上の言葉が出てこないのだろうモブンナは、結局、私を睨みつけた後、この場から身を翻して駆け出した。


 モブンナの姿が見えなくなってからペレウスは溜息を吐いた。モブンナの言動に呆れと疲れを感じている様子だ。


「後輩がひどい事を言った。申し訳ない」


「あなたが私に謝る事などないですよ」


 公爵令息という高位の身分だのに躊躇なく私に向かって頭を下げるペレウスに内心驚いた。


「庇ってくださって、ありがとうございました」


 今度は私が頭を下げた。


「庇ったんじゃない。君の言う通りだと思ったから、モブンナ嬢にそう言っただけだよ」


 ペレウスに私を庇ったつもりはなかったのだとしても、男尊女卑で身分制度があるこの世界で、男爵令嬢で後輩同僚のモブンナではなく、女で異世界人、しかも殺人者の私を庇うような発言をするとは思わなかった。


「先日、ミノス公爵が《異世界人対策課》にいらっしゃった」


「え?」


 ペレウスは話が一区切りついたから話したい話題に変えたのだろうが、その内容があまりにも予想外で私は目を瞠った。


「君であれば、元の世界で犯した、この世界の誰も知りようがない罪でも、そして、それが自分に不利になる事態になると分かっていても告白するだろうと分かっていらっしゃった」


「……彼は何しに来たんですか?」


 まさか、私の心証を悪くして、私を潰すためではないだろう。


 そうしないと言った彼の言葉を信じている訳ではない。


 彼のような人間は復讐するなら、わざわざ他人の手を借りずに自分で実行すると思うからだ。


「君が殺した夫は前世の自分で、君が自分を殺したのは全て自分が追い詰めたせいだと」


「……私を擁護してくれたのですか?」


 確かに、「前世で自分がした事が、どれだけひどかったか、今生でようやく分かった」とは言っていたが。


「《異世界人対策課》は王族相手でも便宜を図ったりはしない。全て公正に判断する事を義務付けられている。異世界で穏やかに暮らせるか、監獄暮らしかという、人一人の行く末を左右するのだからな」


 そこまで考えてくれているペレウスに比べると、どれだけモブンナの言動が幼く未熟なのかがよく分かる。


「それは、ミノス公爵も分かっていらっしゃったが、少しでも君の心証をよくするために、口添えしにいらしたんだ」


「……そうですか」


 そうしてくれた彼に対して何も思う事はない。感謝する事も、嬉しく思う事も。


 彼が何をしてくれても、もう私の心には何も響かないのだ。


 彼自身に対しては、もう何も思わない。


 ただ私が思うのは、いつか彼を殺した罪を贖わなければという思いだけだ。




 


 

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