機動戦士ダブルベータ
「…ママ。」
ヤスデじいちゃん…。
…そうか.
年齢的にそろそろヤバいかもとは思ってたけど、急に来るもんなんだな。
大丈夫、俺のじいちゃんも幾分か進行してて、ちょくちょく俺の事を俺の父親と間違えてたけど。
…色々世話になった礼だ、まかせろ!
「じいちゃん…オムツはチョウチョが替えてくれるからな…!」
「…お前何言ってんだ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
白場庭ファミリーに捕われていた人達は、とりあえずアエオンで難民として受け入れてもらった。
ただでさえ難民問題で大変なアエオンに、追加の難民を連れて来てしまった罪悪感が半端無かったので、ハチノスのおっさんから受け取った大ナットを五つ、5000ナットを寄付させてもらった。
トラックの代金と、この5000ナットでどうにか上手くやっていけるだろう。
俺とチョウチョは今、ヤスデじいちゃんに案内され、アエオン3階にある『教会』と呼ばれている場所に来ている。
前回アエオンに滞在した時は、特に用が無かったので立ち寄ることが無かった場所だ。
「…アエオンがまだ、今ほど賑わっていない頃の話だ。この町にはいろんな理由で親を失ったガキ達が、寄り添う様に暮らしていた。…まぁ、俺と妹もそんなガキだった。」
ヤスデじいちゃんが教会の扉の前で、辛い過去を思い出す様に言う。
「…ある日、町に一体のボロいヒューマノイドが流れ着いた。あちこち壊れたそのヒューマノイドは、何を思ったのかガキ達を集めて面倒を見始めたんだ。」
教会の扉が、軋む音を立てながら開いていく。
「…それが『ママ』、…ヒューマノイド『ソルティ』ママだ。」
開いた扉から見えた物。
それは、本来なら十字架か聖母の像でも置いてあるだろう場所に安置された、壊れたソルティの姿だった。
全身に細かな傷はあるが、それよりも目立つのは、体を斜めに割られたような大きな傷だ。
右腕の肘から先が切断されたように無く、タイヤの付いた下半身も無い。
胸部のタブレットも全面ヒビ割れている。
「これは…、確かに私と同タイプのソルティです。…どうして一体で彷徨っていたのでしょうか?」
「何でも、気が付いたら一人だったんだとさ。どうも壊れる前のメモリーが飛んじまってたらしい。あても無く彷徨って、偶々たどり着いたアエオンでガキ達を見つけた時、『アプリがアクティブ状態になった』とか言ってた。」
「おそらく基礎アプリ『メイドロイド』ですね。主人に仕え、保護対象がいる場合は『身の回りの世話をする』機能があるのです。」
「ここに壊れたソルティがあるのって、そんな理由だったんですね…。」
「チョウチョは、ここにソルティが安置されてるの知ってたのか?」
「ええ、この町に難民として来てすぐに。何度か解体させてくれる様頼んだんですが、その度にご老人達に激怒されました。」
…そりゃあ育ての親を解体されるのは嫌だよなぁ。
「アプリって言やあ、ママは随分苦労してたみたいだったな。『通信にエラーが出て、本社と繋がんねー』とかで、追加のアプリがダウンロードできないっていつも嘆いてたぜ。」
「ちなみに、こちらの『ママ』はどのようなアプリを?」
「…あ~っと、たしか…『ベタートーク』、『コックポッド』、『メイドロイド』、…あとは『ヤングトーク2016』と『ファーブル64』だな。」
アプリの一覧を聞いて、俺の脳に電撃が走った。
「ヤングトークって…確か始めて会った時に、俺がベータに『喋り方がカタイ』って言ったらダウンロードしたヤツだったよな?」
「サイゴーさまのおっしゃる通りです。」
確かダウンロードが終わったら、ベータの喋り方が酷くチャラくなったアレだ。
じいちゃん達の育ての親のソルティに、それが入ってた。
…アエオンの老人にチャラい喋り方の人が多いって理由はコレか…。
…そして俺は、多分もう一つ気が付いた。
「ベータ、『ファーブル64』ってどんなアプリなんだ?」
「昆虫図鑑ですね。」
ソルティママェ…。
子供達の名前を虫から付けるってのはどうなんだよ…。
アエオンの慣習として根付いちゃってるよ?
「じいちゃん、このソルティ…、『ママ』はいつ頃まで稼動してたんだ?」
「俺が成人する前だったから…60年前位だな。俺の妹と友人が、こっそり町の外に出て怪物に襲われてな。それを感知して助けに飛び出したのが、俺の見た最後の姿だったよ。」
「…ベータ、『ママ』は修理可能か?」
「不可能ではありませんが、難しいですね。プラズマリアクターが破損しています。他のソルティからの換装は可能ですが、精密作業ですので専用設備の無い場所ではお勧めできません。」
「…だろうな。俺も何十年もかけて修理しようとしたが、結局アエオンの設備じゃ無理って結論だ。」
…もしかしてじいちゃん、ママを直したくて修理屋の技術を学んだのか?
…やばい…。
そんな事考えたら、ちょっと泣けてきた。
「ベータ、『ハードタンク本社』の設備なら、修理は可能か?」
「可能です。本社には十分な設備に加え、ソルティシリーズの内部資料や完全な設計図もございます。…現在私がアクセス許可されているのは、主にハード面だけですので。」
「…じいちゃん、実は俺達、これからハードタンク本社に行こうと思ってるんだ。…じいちゃんが良ければ、『ママ』を連れて行ってみないか?」
俺の提案を聞いたじいちゃんは、黙って目をつぶっている。
…肩が細かく振るえ、目尻から一筋の涙をこぼしながら。
「…そうか…、また『ママ』と話せるんだな…。俺が死んでも、あの世で会えるのか心配だったんだ…。生きてるうちにまた話せるならと、何度も思った。」
涙を拭い、目を開いたじいちゃんが、俺を見つめる。
「…ノブ、頼む。ママを直してやってくれ。」
「わかった、任せろ!」




