緋月ほたるの素朴(?)な疑問
「うまーい!」
中央にこたつが鎮座する八畳程の広さの和室。
彩雨は瞳を爛々と輝かせながら、レンゲを片手に勢い良く炒飯を掻き込む。
その食いっぷりを見つめる椋介は、彼女が本当に自分と同い年の女の子なのかと疑いそうになる。
「うまあああぁい!!」
「うっ……声がデカイって」
彩雨の先ほどよりも大きい叫びに思わず耳を塞ぐ椋介だが、効果は無いに等しかった。
「たるるぅ、これ凄く美味しいよ!」
彩雨は向かい合う形で座り、落ち着きの無い様子でいる人物、およそ六年振りに再会したもう一人の幼馴染に目を向けるがすぐにまた炒飯を食べ始めてしまう。
「そ、そうか……よ、良かった」
首の後ろで束ねた亜麻色の長髪と真紅の瞳、透明感のある白い肌と涼し気な印象を与える端正な顔立ち。
彩雨が“たるるぅ”と呼ぶ、一見すると美しい女性にも見えるエプロン姿の少年、緋月ほたるは彩雨を見てホッと胸を撫で下ろした。
椋介が暮らす爺桜町に存在する大衆食堂“ひづき”。
そこに客として訪れた椋介たちだったが、今も店内で接客をしているほたるの母の計らいで“緋月家の客”として招き入れられ、椋介たちは二階にある居住空間で寛いでいた。
「ふあぁ、ごちそうさまでしたー」
「……お、お粗末さま、でした」
「へ?」
部屋に彩雨の幸せそうな声が響き渡る。
つい先ほど食べ始めたにも関わらず、既に皿の上には米粒一つすら無い状態であった。
それを見たほたるは嬉しそうに微笑んでみせるが、ほたるの言った言葉に彩雨は首を傾げる。
「何言ってるのたるるぅ? あんなに美味しいモノを粗末だなんて」
「おい彩雨。お粗末様っていうのはな……」
「あ、ありがとう」
よくわからないと言った様子の彩雨に、椋介はほたるの言葉に込められた意味を説こうとするが、ほたるは頬を赤らめながら小さく、だがはっきりと聞こえる声で自分の料理を褒めたことに対するお礼の言葉を口にする。
「い、今、お茶淹れる……」
照れ臭さからか、ほたるは素早く立ち上がりそそくさと居間に隣り合う台所に向かった。
「あ、お皿片付けないと」
彩雨はすぐに立ち上がり食器を手に取ると、ほたるの後を追うように台所へと歩いて行く。
「あ、食器……悪ぃ」
「いや、これくらいはしないとさ。えっと、スポンジはこれを使っていいのかな?」
「そ、その桶に、入れといて。後で、洗うから……」
「ダメ。ボクがご馳走になったんだからボクが洗う」
台所から聞こえるほたると彩雨の話し声。
「うっ……んー!」
一人だけ居間に残った椋介はそれを聞きながら大きく伸びをしてから上半身を倒し、仰向けの状態になるが……
「そういえば、あ、アヤは、なんで、爺桜に、来たんだ?」
「へ? なんでって……」
「……ん?」
台所から聞こえたほたるの声に、椋介は倒したばかりの上半身を起こす。
「す、少し、気になった」
「う、うーん……」
「……あれ?」
たどたどしい口調のほたると、どこか困惑しているように聞こえる彩雨の声。
椋介は声しか聞こえないものの、彩雨が自分から見て意外な反応をしていることに少し驚く。
ほたるが彩雨に向けた問いは、自身が聞こうかと考えていたものだったが……
「遊びに来たかったから来たんだよ」
「理由が無くちゃ来ちゃいけないのー? ムック、水臭ーい」
といった感じのあっけらかんとした返事が来るだろうと思ったのと、何より、彩雨から連絡を受けた切子の口から“遊びに来る”と聞いていたため椋介は結局聞かなかった。
だからこそ、彩雨の反応に椋介は戸惑う。
「えっと……」
彩雨は何を言うのか。
椋介は無意識の内にこたつから出て、聞き耳を立てるのに必死になっていた。




