第13話 お土産のチーズ・ボコンチーノ
なんという平和。お局が有給を三日も取っているので、我が総務部は穏やかな空気に満たされてる。
その分、業務量は増えたが、それ以上にメンタルの平穏さが計り知れない。残業もサクサクとこなしてしまう。相変わらず夕飯はサンマの蒲焼き缶の消費に追われていたが、それでいい。
だからか。お局が復帰した日、余計に疲れてしまう。しかもまた一緒に弁当に誘われてしまった。
「もう北海道旅行、本当に良かったわぁ。ママと一緒に行ったんだけど、牧場のソフトクリームなんて絶品で」
お局、有給中に旅行に行っていたらしい。終始その自慢話を聞かされた。牧場のソフトクリームとか海鮮丼とかジンギスカンとか、聞いているだけで腹が減ってきた。ただでさえ、お局の弁当は彩りがよく、豆ご飯も美味しそうなのに。
「あ、飯田さんもお弁当? ご飯にサンマの蒲焼き? へぇ、ダイエットには良さそう」
そんな嫌味まで言われ、胃がキリキリしてきたが我慢。適当に笑顔を作り、なんとかやりすごす。
「そんな貧乏飯の飯田さんにお土産」
「なんですか、これ」
「北海道の修道院菓子だって。チーズ・ボコンチーノっていうクッキー? スナック?」
「へえ」
「修道院によって秘伝レシピがあってお菓子の味も変わるって。そんなこと聞かされたら買うよね。じゃ! ごちそうさま」
一人、休憩室に残された私。教会のイラストがデザインされたチーズ・ボコンチーノは清らかな雰囲気だ。送り主がお局だって忘れそう。
「まあ、この菓子に罪はない」
自動販売機でカップのコーヒーも買う。コーヒーと共に、このチーズ・ボコンチーノとやらの味を確かめてもいいだろう。送り主はお局だが。本当にそれだけが惜しいが。
袋を開けると、ふわっとチーズの匂い。スナック菓子のような人口的な香りではなく、濃厚な雰囲気だ。
見た目は小さなクッキーだったが、この匂い。連日サンマの蒲焼き缶を食べていた私には宝石みたいに見えた。
「い、いただきます!」
一口齧ると、さらに濃厚なチーズの匂いが広がる。
「な、何コレ。濃くて、カリカリしておいしい。あまじょっぱい!」
しかもコーヒーとも異様にマッチし、あっという間に完食してしまった。最後の一枚を食べる時には惜しいぐらい。
「うん、これは良かった……」
送り主はお局だけど。数々の悪行があるお局も可愛く見えるから不思議だ。そんなことを考ええる私、ちょろいのかも。何はともあれ、チーズ・ボコンチーノに罪はない。素直においしかった。




