第11話 楽しみなおでん
会社からの帰り道、カップルを見てしまった。しかもベトベトにいちゃついてる。
キスはもちろん、周囲に見せつけりようにお互い甘い言葉を囁いているし。
「マァくん、大好き」
「俺もだよ、カリン!」
もう、このまま二人の世界に行ってしまいそう。私を含め、周囲の人たちは白い目だったが。
気分は良くはない。二人の世界のエキストラになったような気分。あんなもの見るんじゃなかった。
同時にお腹も減る。変なものを見てしまったから、スーパーに行く気も失せる。ここは手軽にコンビニに行くのが正解だろう。
「うーん……」
しかしコンビニのチルド食品、軒並み値上がりしている。おにぎりもサンドイッチも「こんな値段だっけ?」と問い詰めたくなる。増量している惣菜もあったが、今日の気分じゃないんだよなぁ。
おでんにするか。まだ季節は少し早い気もするが、先取りしても悪くない。それにおでんは案外、カロリーが低い。
大根は絶対買う。ちくわもマストだ。あぁ、卵やもち巾着もいいなぁ。
結局食べたいものは前部買ってしまった。これだけじゃ足りないので、冷凍していた豆ご飯も温めて、食卓に並べた。
おでんはまだあったかい。湯気はさすがに消えたけれど、早く食べないと。
「いただきます」
手を合わせて食べ始めた。透き通ったおでんの汁が綺麗。さらに透明感が増している大根、どう考えてもおいしい。
「わぁー、卵もプルプル。このちょっと色が変わった卵がいいんだよ。こういうのがいいんだよ」
もち巾着もトロトロ。強いて言えば、寒い時期に食べたらもっとおいしそう。でもそれは冬のお楽しみにしてもいい。肉まん、鍋、ラーメンも楽しみ。あったかい部屋で食べる冬のアイスだってご馳走だ。
冬へ期待を感じていたら、おでんも少なくなってきた。豆ご飯もほとんどない。期待だけでも、ご飯は美味しくなるのかもしれない。
「うーん、寒いのは嫌だけど、冬が楽しみだ……」
ふと、さっき見かけたカップルを思い出す。白い目で見ていたが、今はどうでもいい感じだ。この食卓についたら、私が主役だ。そう、誰もが主役で、エキストラなんてこの世界にはいない。
「やだ、おでん食べているだけなのに、勝手に自己肯定感上がってしまった?」
苦笑する。今日も決して健康的とはいえないのに、おいしいものが食べられたら、なんでもいいのかもしれない。
「ごちそうさま」
もうおでんの容器も茶碗も空っぽだ。秋の風、まだまだ温かい。冬まではまだ遠いかもしれない。それでも冬のおでんを食べるのも楽しみなんだ。




