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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第四章 聖域への侵蝕(デウス・エクス・マキナ)

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託された短剣㈡

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

『そうだ。奴らの本体は、あの次元の亀裂の奥、虚無の空間に潜んでいる。いかに貴女方の力が強大であろうと、この宇宙の理の範疇(はんちゅう)にある攻撃では、奴らの本体に直接攻撃を届かせることは不可能だ。……だが、奴らがこの世界に干渉するためには、必ずこの次元と繋がる「核」となる座標が存在する。その「核」を同時に、混沌と秩序の極限の力で穿ち、この『月詠の刃』で因果の糸を完全に断ち切れば、奴らはこの宇宙への足場を失い、自壊する』


「……なるほど。相手のシステムと、この世界のネットワークを繋ぐ物理的なルーターを破壊し、強制的にオフラインにするっちゅうことやね。論理的やわ」


 凉子は、水晶の短剣を手に取り、伊達眼鏡のセンサーでその構造を瞬時にスキャンした。彼女の論理回路と短剣の清浄なエネルギーが、違和感なく見事にリンクしていくのを感じる。


『ただし、警告しておく』


 月読命の神秘的な瞳が、極めて険しい光を帯びた。


『この刃は、神の力を人間の器で振るうための仮初めの形に過ぎない。貴女方の全力の『混沌』と『秩序』のエネルギーを限界まで注ぎ込めば、耐えきれずに一撃で完全に砕け散るだろう。……すなわち、チャンスはただの一度きり。二人が完全に同時に、寸分の狂いもなく奴の「核」を穿(うが)たねば、全ては無に帰す』


「……一撃で、十分ですわ。わたくしの極上の芸術は、二度も同じ刃を振るうような無粋な真似はいたしませんのよ」


 孝子は、漆黒の短剣を自らのドレスコートの隠しポケットへと、優雅な動作で滑り込ませた。


「コンマ一秒の誤差も出せへん。私の完璧な演算に、不可能という文字はあらへんわ」


 凉子もまた、水晶の短剣を特殊スーツのタクティカルベルトにカチリと音を立ててマウントし、静かに頷いた。


「……行くがよい。二つの美しきバグよ」


 天照大御神が、再び光の玉座から静かに立ち上がった。


「その前に……最後に一度だけ、貴女方が命を懸けて守ろうとする者たちと、言葉を交わすことを許可しましょう」


 天照が手をかざすと、宙に浮かぶ巨大な八咫鏡の表面が波打ち、次元の亀裂の映像がスゥッと消え、代わりに二つの空間の映像が分割して映し出された。

 それは、今まさに二人が潜入してきた伊勢神宮・内宮の外縁部、神域の入り口の映像であった。

 右側の映像に映し出されていたのは、五十鈴川のほとりの濃い闇の中。

 京都・本能寺での黒椿による霊的拷問のダメージが色濃く残る身体を、自らの地獄の瘴気で必死に繋ぎ止めながら、結界の奥をジッと見つめているガーディの姿であった。彼の顔を覆う影はノイズのように激しく明滅し、立っているのもやっとの状態に見える。だが、その凶悪な眼光だけは、決して獲物を逃さない猟犬のように鋭く光っていた。

 左側の映像に映し出されていたのは、同じく神域の森の入り口に停められた、漆黒の移動ラボラトリーの車内。

 本能寺での電撃による凄惨な火傷を負った腕に包帯を巻き、神域の強力な磁場と神気による電子機器へのすさまじい干渉と戦いながら、凉子の生体データと論理リンクを維持しようと、血の滲む指でキーボードを狂ったような速度で叩き続けている詫間亨の姿であった。


『……お、お嬢様ッ!』


 鏡越しに、神殿に立つ孝子の姿を認めたガーディが、痛みに歪む顔を無理やり引きつらせて、獰猛な笑みを作った。


『へっ。通信が繋がるとは……流石はお嬢様だ。まさか、あの忌ま忌ましい天照の懐にまで入り込むとは……地獄の番人である私も、鼻が高いですぜ。……奴らに、見せてやりなせえ。お嬢様が地獄の底で練り上げた、誰にも屈しない至高の苦痛の芸術を。……私は、ここで極上の悲鳴を待ちわびておりやすぜ』


「……ええ。待っていなさいな、ガーディ」


 孝子は、鏡に向かって、誰よりも美しく、そして残酷な微笑みを向けた。


「あの醜いバケモノどもを、一片の肉片すら残さずに切り刻んで、あなた様への最高のお土産にしてさしあげますわ。……わたくしの特等席は、誰にも譲りませんことよ」


『……凉子様』


 亨が、荒い息を吐きながら、血の滲むモニター越しに凉子を見つめ返した。


『私の演算システムは、現在も貴女の生体データとリンクしています。神域の干渉が激しいですが、バックアップは決して落としません。……貴女の論理は、宇宙の法則すらも凌駕する。あの『神託』のバグなど、凉子様の秩序の前では取るに足らないノイズです。……必ず、ご無事で。私の『翼』の帰還を、ここで計算しながら待っています』


「……ダボが。そんなボロボロの身体で、無理して計算せんでええわ」


 凉子は、氷のように冷ややかな声の中に、ほんの僅かだけ、絶対的な信頼という名の温度を滲ませて答えた。


「わたくしの演算は、いつだって完璧やんか。あの巨大なエラーコードをデリートしたら、すぐに帰るわ。……それまでに、その狭くて汚い移動ラボを、少しは美しく片付けておきなさいな、亨さん」


 通信が、静かに途絶えた。

 最後に愛する家族との繋がりを確認した二人の少女の魂から、一切の迷いと恐怖が完全に消え去っていた。後に残されたのは、獲物を狩るための極限まで研ぎ澄まされた純粋な殺意と、自らの美学を証明するための圧倒的なエゴイズムだけであった。


「……道を開きましょう」


 天照が、両手を天に向かって高く掲げた。

 瞬間、八咫鏡から眩いほどの白銀の光の柱が放たれ、神殿の空間そのものをメシャァァッという音を立てて引き裂いた。

 引き裂かれた空間の向こう側に現れたのは、先ほど鏡に映っていた、灰色の砂と捻じ曲がった黒い枯れ木が無限に広がる、完全に色が失われた死の世界――『虚無の庭園』へと続く、次元の回廊であった。

 扉が開いた瞬間、そこから流れ込んでくる絶対的な「無」の重圧と、全てを吸い込もうとする恐ろしい真空の気流が、神殿内の神気すらもかき消さんばかりに吹き荒れる。

 常人であれば、その気流に触れただけで魂が分解され、自我を完全に失ってしまうほどの、致死的な次元の狭間。


「さあ、お行きなさい。貴女方の魂の輝きが、この世界を繋ぎ止めることを祈っています」


 猛烈な気流が吹き荒れる中、二人の少女は次元の扉の前に並び立った。

 孝子は、自らの全身から地獄の赤い業火を爆発的に噴出させ、次元の圧力に対抗するための絶対的なバリアを展開した。

 凉子は、純白のスーツから数万ボルトの青白いプラズマの雷光を迸らせ、周囲の物理法則を強制的に安定させる論理フィールドを構築した。

 赤と青。二つの光が、虚無の入り口で強烈なコントラストを描き出す。


「……堕天使様。わたくしの歩く道を、その邪魔な雷で塞がないでくださいましね。遅れたら、置いていきますわよ」


 孝子が、赤い炎の中で妖艶に笑う。


「……地獄のネズミさん。あんたこそ、私の完璧な演算ルートの邪魔をせえへんことやね。少しでもノイズを出したら、背中から即座にデリートしたるわ」


 凉子が、青い雷光の中で氷のように冷たく言い放つ。

 互いへの憎悪の言葉を最後のエネルギーに変え、二人の少女殺し屋は、一切の躊躇なく、全く同時に床を蹴った。

 彼女たちの身体は、二筋の光の矢となって、宇宙の法則が一切通用しない絶対的な死の領域――『虚無の庭園』の深く、暗い次元の亀裂の奥底へと、音もなく飲み込まれていったのである。

 神々の聖域から放たれた、混沌と秩序の双刃。

 偽りの鎮魂歌(レクイエム)の最終楽章が、今、人間界を完全に離れ、神話と狂気が交錯する特異点において、その絶望的で美しい幕を開けようとしていた。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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