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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第四章 聖域への侵蝕(デウス・エクス・マキナ)

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月読の導き㈠

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 ドサッ、という極めて軽い、落ち葉を踏みしめる音が二つ、伊勢神宮・内宮の禁足地の深い森に響いた。

 結界の『浄化の凪』を突いて神域へとダイブした二人の少女は、鬱蒼(うっそう)と生い茂る数千年規模の巨大な杉や(くすのき)の根元に、ほぼ同時に着地を果たした。

 外界の雨音も、五十鈴川のせせらぎも、ここでは一切聞こえない。

 そこは、人工的な光源など皆無の絶対的な闇でありながら、不思議と視界が利いた。それは、木々の一本一本、足元の苔の一粒に至るまでが、長きにわたり蓄積された純度百パーセントの「神気」を帯び、自らが微かな燐光(りんこう)を放っているからであった。

 人間界の汚濁(おだく)から完全に隔離された、この宇宙で最も清浄なる領域。


「……なんという、不愉快で、そして吐き気がするほど神聖な場所かしら」


 北條孝子が、漆黒のドレスコートの裾を優雅に払いながら、電光剣のグリップを強く握り直した。

 彼女の全身を覆っていた、結界突破のためのドロドロとした地獄の瘴気は、この神域の空気に触れた瞬間、ジュウッと音を立てて白煙を上げながら霧散してしまっていた。地獄の住人である彼女にとって、この清浄すぎる空気は、肺に直接熱湯を注ぎ込まれるような、あるいは全身の皮膚を細かいヤスリで削り取られるような、強烈な不快感と息苦しさを伴うものであった。


「……ダボが。油断せえへんことやね。ここには、私たちの論理(ロジック)を大きく狂わせる、とてつもないバグが潜んどる匂いがプンプンするわ」


 少し離れた場所に着地した高清水凉子もまた、純白の特殊戦闘スーツの各部センサーを最大出力に切り替えながら、氷のように冷たく青い瞳を細めて周囲の闇を睨みつけた。

 かつて天界に属していた彼女にとって、この場所の「神気」は、ある意味で同質のエネルギーではある。だが、それは彼女が求める数学的で無機質な「秩序」とは異なり、土着の信仰と血生臭い歴史の念がドロドロと絡み合った、極めて泥臭く、非論理的なエネルギーの塊であった。

 二人の少女殺し屋は、日本の神道の頂点にして心臓部という、最も場違いで危険な領域へと、ついにその足を踏み入れたのである。


「さて、あのお高く止まった黒椿の顔を絶望に歪ませる、極上の舞台はどちらかしら?」


 孝子が、千枚通しの切っ先を舐めようとした、まさにその瞬間であった。


 ザワワワワッ……!!


 風もないのに、周囲の巨大な杉の木々が一斉に激しく身をよじり、枝葉を鳴らした。

 その直後、二人の少女の周囲の深い闇の中から、無数の「目」が、一斉に、そして冷酷に開かれた。


「なっ……!?」


 凉子の伊達眼鏡のディスプレイに、全方位からの尋常ではない数の生体反応(?)の警告が、真っ赤なアラートとして埋め尽くされる。


「……お出迎え、というわけですの?」


 孝子の漆黒の瞳が、獲物を見つけた歓喜に妖しく細められた。

 暗闇の中から音もなく姿を現したのは、およそ人間界の生物の枠組みを逸脱した、異形の存在の群れであった。

 巨大な鹿の角を持ち、直立二足歩行をする獣。

 四枚の白銀の翼を持ち、人間の顔をした巨大な鳥。

 あるいは、特定の肉体を持たず、ただ青白い人魂のような光の塊として空間を浮遊するモノ。

 彼らこそが、この内宮の禁足地を数千年にわたって守護し続けてきた、天照大御神の眷属――『神使(しんし)』たちであった。

 彼らは、この神聖なる領域に強行侵入してきた、地獄の瘴気を纏う孝子と、天界の異端である凉子という二つの「巨大な穢れ」を、即座に、かつ容赦なく排除すべく、圧倒的な神気を放ちながらジリジリと包囲網を狭めてきたのである。


「……下等な精霊どもが。わたくしの秩序(コスモス)を乱す気なん? まとめて浄化(デリート)したるわ」


 凉子が、ショック棒から青白い雷光を迸らせ、戦闘態勢に入る。


「あらあら、美しくないザコども。わたくしのお稽古の前の、良い準備運動になりそうですわね」


 孝子もまた、電光剣の赤い業火をシュゥゥゥッと音を立てて燃え上がらせた。

 二人の少女が、神使の群れへと飛びかかろうと地を蹴る直前であった。


『――待て。その者たちは、我が姉が、客人として招かれた』


 声は、物理的な音波としてではなく、直接二人の脳髄の奥底に、静かで、しかし絶対的な威厳と重圧を伴って響き渡った。

 その声が響いた瞬間、今まさに二人に襲いかかろうとしていた異形の神使たちが、まるで一時停止ボタンを押されたかのようにピタリと動きを止め、一斉にその場に平伏したのである。


「「……!?」」


 孝子と凉子は、想定外の事態に、同時に攻撃のモーションを中断し、声のした方向――さらに森の奥深くへと視線を向けた。

 そこには、闇がそこだけぽっかりと切り取られたように、淡く、青白い光を放つ空間があった。

 その光の中心に、一人の長身の男性の姿が浮かび上がっている。

 神代の時代の狩衣(かりぎぬ)を纏い、その顔は信じられないほどに整っており、性別すらも超越したような神秘的な美しさを(たた)えている。彼の周囲には、まるで彼自身が光源であるかのように、常に満月の冷たい光が寄り添っていた。


「……月読命(つくよみのみこと)、か」


 凉子が、伊達眼鏡のデータベースと照合し、驚愕に(わず)かに目を細めて呟いた。


「月読命? 天照の弟にして、夜を統べる月の神様、ですの?」


 孝子も、電光剣の炎を下げながら、警戒の眼差しを向ける。


『如何にも。我は月読。この内宮の最奥、我が姉・天照が座す場所へと至る道を、夜の(とばり)をもって守護する者』


 月読命は、平伏(へいふく)する神使たちの間を、地面に触れることなく滑るように歩み寄り、二人の少女の数メートル前で立ち止まった。


「……客人、とおっしゃいましたわね? わたくしたちのような(けが)れた殺戮者を、日本の最高神がわざわざご招待してくださったと?」


 孝子が、扇子で口元を隠しながら、皮肉めいた笑みを浮かべて問う。


「……ダボが。私たちを呼び込んだのは、あの『神託』とかいう悪趣味なバグやろ。あんたら古いシステムが、なぜ私たちを迎え入れるんや? 論理的な説明を求めますわ」


 凉子もまた、ショック棒を構えたまま、氷のような声で問い詰める。


『……全ては、我が姉が全てを視ておられる』


 月読命の神秘的な瞳が、悲しげに伏せられた。


『我ら古き神々が、長きにわたりこの地に封印してきた、宇宙の法則を書き換えんとする『特異点』。……『神託』と名乗る者どもは、その封印を内側から食い破り、我らの足元で、我らの力すらも利用して増殖を続けている。……もはや、我らの力だけでは、あの『混沌の海』からの侵食を完全に断ち切ることは叶わぬ』


「……神様が、(さじ)を投げたとおっしゃるの?」


 孝子が、心底呆れたように鼻で笑った。


『……故に、姉は貴女方を待っておられた。相反する二つの力……地獄の極限の混沌と、天界の極限の秩序。その二つが、極限状態で衝突し、融合した時にのみ生み出される、あの『不協和音(ディスコード)』の力を』


「なっ……!?」


 凉子の美しい顔が、初めて明確な驚愕に歪んだ。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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