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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第四章 聖域への侵蝕(デウス・エクス・マキナ)

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禁足地への道㈠

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 深夜、午前二時。

 三重県、伊勢志摩国立公園。日本神道の最高峰であり、二千年以上の歴史を持つ天照大御神(あまてらすおおみかみ)を祀る神聖なる領域、伊勢神宮・内宮(ないくう)をぐるりと取り囲む広大な原生林は、俗世の喧騒を完全に拒絶するような、重く、そして圧倒的に清浄な静寂に支配されていた。

 太古から手付かずのまま残された巨大な鉾杉(ほこすぎ)(くすのき)が、天を衝くように林立し、分厚い葉群が星明かりすらも遮っている。空気には、数千年にわたって祈りを捧げられてきた土地特有の、肺の奥まで澄み渡るようなピンと張り詰めた神気が満ちており、凡人が足を踏み入れれば、その目に見えない重圧だけで畏れ慄き、膝をついてしまうほどの途方もないプレッシャーが漂っていた。

 だが、その神々の息吹が満ちる原生林の暗闇の奥深く、五十鈴川(いすずがわ)の上流へと続く獣道に、一台の明らかに異質な人工物が、エンジン音もタイヤが枯れ葉を踏む音も一切立てずに、音もなく潜んでいた。

 それは、詫間亨が持てるテクノロジーの粋を集めて開発した、完全な光学迷彩と電磁波ステルス機能を搭載した漆黒の移動ラボラトリー(特装ワンボックスカー)であった。

 外部からは完全に透明化して景色に溶け込んでいる車内において、純白の特殊戦闘スーツに身を包んだ高清水凉子は、後部座席に据え付けられたホログラム・コンソールの前で、足を組み、氷のように冷たく青い瞳を細めていた。


「……亨さん。この分厚くてごっつい目障りな結界、あんたの計算でどうにかなりまへんの?」


 凉子は、空中に投影された伊勢神宮・内宮の立体マップを、まるで出来の悪いパズルでも睨みつけるかのように見つめながら、耳元の通信マイクに向かっておっとりとした神戸の言葉で問いかけた。彼女の声には感情の起伏はないが、その底には明確な苛立ちが混じっている。

 ホログラムのマップ上には、内宮の中心部を幾重にも覆い尽くす、半球状の巨大で圧倒的なエネルギーフィールドが真っ赤な警告色で表示されていた。


『――御意に、凉子様。現在、神戸の地下ラボのメインサーバーと同期し、この内宮を覆う結界のシステムに対して、論理的な解析と脆弱性(セキュリティホール)の探索を実行中です。……しかし、これは厄介ですね』


 運転席のシートを改造したハッキングシートで、数十のホログラムキーボードを凄まじい速度で叩き続けている亨が、微かに焦燥を含んだ声で報告する。


『この結界は、我々が日常的にハッキングしている電子的な防壁や、地獄の番人が張るような怨念の呪詛とは、全く次元が異なります。純粋な『神気(オーラ)』、つまりこの宇宙の法則の根源に近い極めて高純度のエネルギーのみで構成された、絶対防御フィールドです。我々の物理的、あるいは電子的なアプローチでは、外部から一点突破して穴を開けることは、論理的に一〇〇パーセント不可能です』


「……まあ、頼りないことですこと。ご自慢の『論理』とやらも、この国の神様の張った時代遅れのバリアの前では、ただの役立たずのガラクタになってしまうようですわね」


 不意に、車内に設置された暗号化通信のモニターから、鈴を転がすような、しかし猛毒を含んだ冷ややかな笑い声が響いた。

 モニターの画面には、横浜から遠く離れた紀伊山地の山奥、ガーディが手配した外界から完全に隔離された隠れ家から通信を繋いでいる、北條孝子の姿が映し出されていた。

 漆黒のゴシック調のドレスコートに身を包み、陶器のような白い肌に真っ赤な口紅を引いた孝子は、手にした美しい細工の扇子で口元を隠し、画面越しの凉子を嘲るように見下ろしている。


「……ダボが。黙っとれや、地獄のネズミ」


 凉子は、振り返ることもなく、絶対零度の声でモニターに向かって吐き捨てた。


「あんたの下品なオカルト自慢なんか、一ミリも聞きたないわ。私の秩序(コスモス)の計算に、あんたのその泥臭い声が混じるだけで、ごっつい不快なノイズになるんやから。さっさとその汚らしい地獄の瘴気で、結界ごと焼き尽くしてみたらええやんか」


「あらあら、人に物を頼む時の態度というものを、天界の立派な学校では教わりませんでしたの? ……まあ、よろしいですわ。こんな所で足止めを食うのは、わたくしにとっても退屈な時間の浪費ですもの。ねえ、ガーディ」


「へっ。お任せを、お嬢様。あのような時代遅れの神々が小手先で編み上げた結界など、地獄の底で数万年煮込まれた怨念の炎に比べれば、ただの甘い綿あめみたいなもんでさァ」


 孝子の背後の影から、長身痩躯の執事・ガーディがズルリと姿を現し、凶悪な眼光をギラつかせた。

 互いに殺意を剥き出しにし、一秒でも早く相手の喉元を掻き切りたいと願いながらも、彼女たちは今、『神託(オラクル)』という宇宙のバグを完全に消去(デリート)するという共通の目的のためだけに、この吐き気を催すような通信回線を維持していた。

 決して交わることのない二つの刃。だが、互いの能力の限界を誰よりも理解しているのもまた、皮肉なことにこの二人だけであった。


『――お待ちください、お二人とも。互いの力を無闇にぶつけ合うのは、論理的にも霊的にも下策(げさく)です』


 亨が、ヒートアップしかけた二人の口論を、冷徹な声で遮った。


『結界の解析に、僅かながら『(ほころ)び』を発見しました。……ここです』


 亨がキーボードを叩くと、ホログラムのマップが拡大され、内宮の脇を流れる清流・五十鈴川の水脈と、半球状の結界がちょうど交差している地下の一点が、青くハイライトされた。


『五十鈴川は、神域の(けが)れを外界へと洗い流す役割を持っています。つまり、この水脈が結界を通過する一点だけは、内部から外部へとエネルギーを排出するための『排水口』として、結界の密度が意図的に薄く設定されているのです。この僅かな隙間を突けば、凉子様の演算能力と身体能力をもってすれば、一時的に結界を『透過』して侵入することが可能かと思われます』

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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