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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
序 章 関ヶ原の驟雨(しゅうう)

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蒼き断罪㈠

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 氷の刃のような冷たい雨が降り(しき)る関ヶ原。東の陣営が地獄の業火と絶望的な苦痛の悲鳴に包まれ始めていたまさにその頃、広大なリゾート施設跡地を挟んで対峙するもう一方の極――西の陣営でもまた、人智を完全に超越した、極めて冷酷かつ無機質な「処理」が、恐ろしいほどの静寂と美しさの中で実行されようとしていた。

 関西全域から西日本一帯の裏社会を牛耳り、古き良き極道の伝統的結束と、近代的な企業舎弟を駆使した圧倒的な資金力を誇る「関西侠友連合」。その主力たる武闘派部隊が本陣として陣取っていたのは、かつてこのリゾート施設で最も広大な敷地面積と威容を誇った、東棟の巨大ホテル跡地であった。

 無数の照明弾が断続的に暗い空へと打ち上げられ、雨に濡れて黒ずんだコンクリートの壁や、幾千の足跡によって泥濘(ぬかる)んだ地面を、不気味で毒々しいオレンジ色に染め上げている。およそ千五百人を超える関西側の組員たちは、高級なスーツを泥にまみれさせながら、金属バット、鉄パイプ、鋭く研ぎ澄まされた日本刀、あるいは密輸されたトカレフやマカロフといった銃器を構え、東の陣営から迫り来るであろう関東鋭爪会の敵を今か今かと待ち構えていた。

 彼らの口からは獣のような雄叫びや、相手を威嚇(いかく)するための下劣な罵声(ばせい)が絶え間なく吐き出されている。彼らが放つ濃密な暴力の匂い、アドレナリンと恐怖が入り混じった汗の臭い、そして血と泥と酒が混ざり合った下品な体臭は、冷たい氷雨(ひさめ)が容赦なく降り注ぐ空間の中であっても、周囲の空気をひどく重く、そして吐き気を催すほどに濁ったものに変質させていた。

 だが、その血生臭く薄汚れた喧騒から、完全に、そして絶対的に切り離された場所が一つだけ存在した。

 東棟ホテルの最上階。かつては海外からの国賓すらも迎え入れたであろう、ガラス張りの豪奢なスイートルームのバルコニーである。

 激しい雨風を凌ぐ巨大なガラスの(ひさし)の下、一人の少女が、眼下で泥にまみれて(うごめ)く男たちの群れを、まるでプレパラートの上を無意味に這い回る名もなきバクテリアでも観察するかのような、絶対零度の冷たい瞳で静かに見下ろしていた。

 少女の名は、高清水凉子(たかしみず りょうこ)

 神戸の山手、六甲の豊かな緑と海を臨む歴史ある高級住宅街に居を構える、誰もが名を知る名家の令嬢である。東の陣営で殺戮を繰り広げている北條孝子と同じく、彼女もまたこの地上において高校二年生という年齢を生きている。

 緩やかに、そして重力を計算し尽くされたかのように完璧なウェーブを描く栗色の髪。寸分の隙もなく着こなされた、深い青色を基調とする神戸の歴史あるミッション系女学院の高級ブランド制服。その白く透き通るような雪のような肌と、彫刻家が精魂込めて削り出したかのように美しく整った顔立ちは、彼女が生まれながらにして俗世の泥にまみれることのない「選ばれた存在」であることを、無言のうちに雄弁に物語っていた。

 しかし、彼女の放つ圧倒的な美しさは、人間の血の通った温もりや、感情の揺らぎを感じさせるものでは決してなかった。それは極限まで研ぎ澄まされた氷の結晶や、寸分の狂いもなく精緻(せいち)に設計された最新鋭のコンピューターが放つ、極めて無機質で冷徹な「美」そのものであった。


「……亨さん。先方の配置、もう少し解像度上げられへん? 雨のノイズがごっつくて、この下品な虫けらどもの正確な数が把握しづらいんやな」


 凉子の美しい唇から紡がれる言葉は、彼女の洗練された外見とは裏腹に、神戸や播州の言葉が入り混じった独特の響きを持っていた。ゆっくりと、おっとりとした口調で語尾を伸ばすその声は、一見すると上品でかわいらしい響きを持っている。だが、その声色には感情の起伏が一切存在せず、ただただ目の前の事象を論理的に処理しようとする、絶対的な自己肯定と他者への見下しだけが込められていた。

 彼女の言葉は、耳元に装着された真珠のような超小型のヘッドセットマイクを通じて、遥か数百キロ離れた神戸の地、高清水家の地下深くの岩盤をくり抜いて構築された巨大なラボラトリーにいる、たった一人の協力者へと瞬時に届けられていた。


『――御意に、凉子様。現在、気象データと照合し、雨粒の物理的なノイズキャンセリングを実行中。サーマル映像と生体反応の解析結果を、凉子様の眼鏡の右上に再投影いたします。……敵の主力部隊は、やはり中央のクラブハウス跡地に集中しておりますな』


 通信の向こう側から、ひどく落ち着いた、知性を感じさせる若い男の声が響く。

 声の主は、詫間亨(たくま とおる)。表向きは、若き天才発明家としてIT業界やロボット工学の分野で名を馳せる新進気鋭の実業家である。だが、その真の顔は、凉子の「お嬢様としての完璧な日常」を徹底的に守り抜き、彼女の裏社会での活動を最高峰のテクノロジーでサポートし、依頼を仲介する、彼女ただ一人に仕える専属ブローカーであった。

 高清水凉子の正体――それは、はるか天上の世界、天使養成校から自らの明確な意思で「()ちた」、美しき堕天使(だてんし)である。

 彼女がかつて所属していた天界の学び舎は、宇宙の絶対的な「善」と「調和」のみを教え込む場所であった。そこでは、全ての存在が「愛」という名の下に画一化され、個人的な感情や論理的な思考は、大いなる秩序を乱す「不純物」として徹底的に排除されていた。

 だが、凉子の並外れた知性と極限の美学は、その冷徹なまでの「愛の強制」に底知れぬ嫌悪感を抱いたのだ。愛という不確かで、移ろいやすく、非論理的な感情で縛られた偽りの調和に、一体何の意味があるのか。計算し尽くされた完璧な「論理(ロジック)」と、寸分の狂いもない「秩序(コスモス)」こそが、この宇宙における真の美しさであり、絶対的な真理ではないのか。

 十五歳の時、彼女は自らの絶対的な美学を貫くため、その輝かしい天使の輪と羽を捨て去り、この混沌と不条理に満ちた地上へと舞い降りたのである。

 そして、この泥にまみれた地上で最初に出会ったのが、亨であった。彼は、人間でありながら極限の論理的思考を持ち、涼子の異質さと高潔な孤独を一目で見抜いた。彼は彼女の「美学」の唯一の理解者となり、彼女がその神聖な力を現世で最大限に、かつ極めて効率的に行使するための数々のガジェットを自らの手で開発し、提供したのである。

 今、凉子の整った顔に掛けられている銀縁(ぎんぶち)の伊達眼鏡は、亨のラボのメインコンピューターと直結し、あらゆる戦況データを視覚化して送受信するためのヘッドマウントディスプレイであった。耳元の真珠の補聴器は、分厚いコンクリートの壁の向こう側で交わされるヤクザたちの下品な密談や、数百メートル先で高鳴る心音さえもクリアに拾い上げる、オーバーテクノロジーの超高性能集音器である。

 そして、彼女の武器は、亨が彼女の「無駄な苦痛を与えずに消去する」という美学に合わせて特別に開発した、対悪人用の特殊スタンロッド。通称、ショック棒である。


「東棟の屋上、あのプールサイドの周辺に、敵の遊撃隊がめいめいに散らばって、三十名ほど展開しとうよ。こちらの陣営の背後に回り込もうとしとる、ごっつい目障りなネズミどもやな」


 凉子は、補聴器が拾い上げる、下品な笑い声と泥を跳ね飛ばす粗野な足音に、心底不快そうに美しい眉をひそめた。


『いかがなさいますか、凉子様。私の遠隔操作で、プールサイド周辺の大型照明をショートさせ、彼らの視界を完全に奪うことも可能ですが』

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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