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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第三章 黒椿の契約

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魂の汚染㈡

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 凉子がストラディバリウスをケースに投げ入れるように収めると、亨は痛ましげに目を伏せ、タブレットの画面を彼女に提示した。


「地下ラボのメインフレームで、昨夜の戦闘データの三次解析が完了しました。結論から申し上げます。……あの『融合』は、制御不能な純粋なバグの極致です」


「どういう意味なん」


「文字通りです。あの赤と青の螺旋エネルギーは、凉子様の極限の論理演算能力(ロジック)も、相手の混沌衝動(カオスドライブ)も、一切受け付けなかった。あれは、二つの相反する魂が、互いへの『絶対的な殺意』と『強烈な拒絶』を触媒にして、偶発的に発生した、宇宙の法則を破壊するエネルギーです。……もし、あの場にもう三十秒留まっていれば、お二人は自らの力の暴走によって、魂の構成物質ごと完全に消滅していました」


「……そんなデタラメな力が、この私の中から生まれた言うのんか」

「そして、最悪の報告がもう一つ。『神託(オラクル)』は、あの制御不能な暴走データを、要塞の崩壊の最中にもかかわらず全て収集しています。奴らの目的は、あの『神の力』とも呼ぶべきエネルギーを、意図的に、そして安定的にこの次元で再現することでしょう。そのために、凉子様と、あの『赤い閃光』が、生きた実験装置として必要不可欠なのです」


「……」


 凉子は、窓の外の灰色の空を、絶対零度の氷のような瞳で見据えた。


「つまり、私たちは、あの下品で野蛮なネズミ女と『セット』で、ええように実験動物にされた、いうことやね」

 凉子の青い瞳の奥で、恐ろしいほどの怒りの雷光が静かに、しかし確実に明滅を始めた。


「次に会う時は、必ず……わたくしの『雷』で、あの女の存在そのものを、この世のシステムから完全に消去(デリート)する。そうでなければ、わたくしの『秩序(コスモス)』は、永遠に取り戻せへんわ……!」


 富士の樹海での激闘から、およそ一ヶ月が経過した。


神託(オラクル)』からの接触は、あの日以来ぱたりと途絶えた。関東鋭爪会も、関西侠友連合も、そして表社会の警察組織も、何事もなかったかのように平穏な日常を取り戻している。

 孝子も、凉子も、それぞれの学校で、完璧な「お嬢様」としての日常のルーティンを演じ続けていた。

 だが、二人は、自らの研ぎ澄まされた魂の奥底で、常に感じていた。

 あの富士の地下要塞から戻って以来、何者かの「視線」が、四六時中、自分たちにねっとりと注がれていることを。

 横浜、聖黒椿女学館。

 色づいた銀杏並木が見える教室の窓際で、孝子は休み時間に一人、優雅に紅茶のマイボトルを傾けながら、ふと虚空を睨みつけた。


「……ガーディ。最近、どうも不愉快な視線を感じますの。あなた様の『目』とはまた違う、ひどく無機質で、ねっとりとした、気色の悪い視線。心当たりはありまして?」


 孝子が囁くと、黒板の陰に潜んでいたガーディが、苦渋に満ちた声で応答した。


「……申し訳ございやせん、お嬢様。我が地獄の『目』をもってしても、その視線の主の物理座標を特定できませぬ。それは、霊的な呪詛(じゅそ)でも、人間どもの監視カメラや盗聴器による物理的なものでもねえ。……まるで、この世界の外側、次元の狭間(はざま)といった遥か高みから、我々という存在そのものを『観測』しているかのような、とてつもねえ気配でさァ」


 神戸、聖マリアンヌ女学院。

 高度な微積分の授業中、凉子は黒板の数式をノートに書き写す手を止め、背筋を這い上がるような不快なスキャンされている感覚に、小さく身震いをした。


「……亨さん。この鬱陶(うっとお)しい監視プログラム、あんたの技術で排除できへんの?」


 凉子が、伊達眼鏡の通信機を通じて苛立ちをぶつける。


『……不可能です、凉子様』


 地下ラボにいる亨の焦燥した声が、補聴器から響く。


『日本中のあらゆる監視カメラ、盗聴器、衛星回線、全てを常時チェックしていますが、物理的な異常は一切ありません。ですが、このラボの超並列メインサーバーにさえ、正体不明の、しかし極めて微弱なアクセスが常時行われています。それは、データを盗むハッキングではない。……まるで、我々の『思考』や『感情の揺らぎ』そのものを、外側から読み取ろうとしているかのような、次元の違うアクセスです』


 二つのチームは、確信していた。


神託(オラクル)』は、沈黙しているのではない。彼らは、彼女たちのこの「日常」そのものを、巨大な実験箱として、二十四時間態勢で「観測」しているのだ。

 あの富士で起きた「融合」が、どのような精神状態、どのような条件の下で再び発動するのか。二人の少女の感情の起伏、美学の揺らぎ、その全てをデータとして収集している。この退屈な日常こそが、次なる「実験」のための前段階に過ぎないのだと。

 焦燥と、見えざる敵への怒りが極限に達しようとしていた、まさにその日の夜。

 事態は、唐突に、そして強制的に動き出した。

 横浜の自室でベッドに横たわっていた孝子の、アンティーク調のスマートフォンの画面が、突如として真っ黒なノイズに覆われた。

 神戸の自室で本を読んでいた凉子の、銀縁の伊達眼鏡のディスプレイが、突如として激しい砂嵐と共にブラックアウトした。

 次の瞬間、二つのデバイスに、全く同じ、エレガントでありながら血も凍るほどに冷酷な筆記体の文字が、ゆっくりと浮かび上がった。


『――観測終了。データは十分に収集されました。

 これより、フェーズ2へ移行します。

 明晩二十時。京都・祇園。最も格式高き御茶屋、『一力亭(いちりきてい)』。

 当方の代理人である『彼女』も、お二方をお待ちしております。

 拒否は、認めません。

 御二方の、そのご両親やご友人に囲まれた、輝かしくも脆い『日常』を守るために。

 神託オラクル


「「………………ッ!」」


『彼女』。


 その一言が、二人の少女の魂に、再びあの忌まわしい富士での不協和音をフラッシュバックさせた。

『神託』は、再び、二つの「異常」を、同じ檻の中に閉じ込めようとしている。それも、日本の伝統と美が極まる、京都・祇園という舞台で。


「……上等ですわ。わたくしの日常を人質に取るそのふざけた真似、必ず後悔させてさしあげますわ」


 孝子は、スマートフォンの画面を割れんばかりの力で握りしめ、地獄の業火のように赤い瞳を光らせた。


「……ダボが。どこまでも人の論理を舐めくさって。そのふざけたシステム、祇園の夜に完全にデリートしたるわ」


 凉子は、伊達眼鏡を外し、絶対零度の青い瞳で、迫り来る決戦の夜を睨みつけた。

 新たなる死のゲームへの招待状。

 逃げ場のなくなった二人の少女は、互いへの殺意と、『神託』への底知れぬ怒りを胸に秘め、決戦の地である古都・京都へと向かう準備を静かに、そして冷酷に始めようとしていた。偽りの鎮魂歌は、いよいよその狂気の第二楽章へと突入していく。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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