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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第二章 樹海の不協和音(ディスコード)

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暴走する融合(フュージョン)㈠

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

「さあ、始めましょう、美しき異常者たちよ! 混沌と秩序の不毛なデュエットか、あるいは、我らが新世界の無慈悲な合唱(コーラス)か! 生き残った方だけが、真の『正義』なのです!」


 “予言者”キジマの狂気に満ちた号砲が巨大なスピーカーから響き渡ると同時に、地下要塞の広大なドームは、完全な阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。

 座席から一斉に立ち上がった数百人の少年少女たちは、もはや人間としての理性や感情、あるいはかつて持っていたはずの「特異な才能」の輝きすらも微塵も残していなかった。光を完全に失った虚ろな瞳の奥に、地獄の最下層から引きずり出された『虚無』と『飢餓』の力だけを、ドロドロとした漆黒のオーラとして(たぎ)らせている。

 彼らは、文字通り一つの巨大な真っ黒な波濤(はとう)となって、祭壇の下で対峙する二人の少女殺し屋へと、一切の躊躇や恐怖を見せることなく津波のように殺到してきた。

 その動きは、統率の取れた軍隊のそれとは全く異なる。人間としての関節の可動域を完全に無視し、蜘蛛のように垂直な壁や高い天井を這い回り、あるいは獣のように四つん這いになってコンクリートの床を蹴り飛ばし、あらゆる死角から立体的に襲いかかってくる。それは、個々の意志を持たないがゆえに、全体が一つの巨大な捕食者として機能する、完璧で(おぞ)ましい生体兵器の群れであった。


「……面倒ですこと! まとめて消し炭になさいあそばせ!」


 北條孝子は、全方位から迫り来る黒い波濤に向かって、愛用の電光剣のグリップを強く握りしめ、その出力を最大まで引き上げた。シュゥゥゥッという周囲の酸素を急激に焦がす音と共に、極限まで圧縮された紅蓮の業火が、長大な光の刃となって激しく(ほとばし)る。


「はぁぁぁぁッ!」


 孝子がその場で独楽(こま)のように美しく回転しながら、赤い閃光を水平に()ぎ払った。地獄の苦痛を内包したその絶対的な斬撃は、先頭を走って飛びかかってきた十数名の少年少女たちの胴体を、熱したナイフでバターを切り裂くようにいとも容易く両断した。

 上半身と下半身が分かたれ、コンクリートの床にドサリ、ドサリと崩れ落ちる無残な肉塊。

 だが、その光景を見下ろした孝子の美しい顔に、いつものような「他者の苦痛を愛でる」恍惚とした笑みは浮かばなかった。それどころか、彼女の漆黒の瞳には、信じられないものを見たという驚愕(きょうがく)と、そして沸点に達するほどの強烈な苛立ちが浮かび上がっていた。


「……血が、出ませんの……? それに、誰一人として悲鳴も上げないなんて……!」


 両断された少年少女たちの身体の断面は、まるで精巧に作られたマネキンや蝋人形のように滑らかで、血の一滴も噴き出していなかった。さらに異常なのは、致命傷を負い、地獄の業火に魂の奥底まで焼かれているはずの彼らが、苦悶の表情一つ浮かべることなく、声帯を震わせて絶叫することすらしないという事実だった。

 キジマの徹底した洗脳と、地獄の番人の(おぞ)ましい力によって、彼らは痛覚という人間にとって不可欠な生体アラートを完全に削除され、魂の構造そのものを「苦痛を一切感じない」状態へと無機質に最適化されていたのである。


「ふざけないでちょうだい! 斬り刻んでも泣き叫ばないなんて、壊れたおもちゃ以下のただの粗大ゴミですわ! わたくしの極上の芸術を愚弄するのも、大概になさいあそばせ!」


 孝子が信奉する「相手に究極の苦痛を与えて、その絶望に顔を歪める様を(なぶ)る」というサディスティックな美学が、ここでは全く通用しなかった。どんなに残酷な一撃を加えても、相手からの「反応(フィードバック)」が一切得られない。それは、地獄の底で彼女が自らの尊厳を保つために築き上げた「苦痛による支配」という存在意義を、根底から否定されるに等しい屈辱であった。


「……ダボが。感情任せに力一杯振り回すから、無駄な隙ができるんやろ。あんたの下品な炎は、ただの目障りなノイズやわ」


 孝子の激しい苛立ちを他所に、高清水凉子は氷のように冷たい青い瞳で戦況を俯瞰し、純白の特殊戦闘スーツを華麗に翻しながら、電流鞭(ライトニング・ウィップ)を縦横無尽に振るっていた。


 バチバチバチッ!!


 数万ボルトの青白いプラズマがドームの空間で弾け、鞭の描く精密な軌道に触れた少年少女たちが、瞬時にして細胞の水分を蒸発させられ、次々と黒焦げの炭と化して崩れ落ちていく。だが、凉子の感情を排した能面のような表情にもまた、普段の完璧な余裕は失われつつあった。


「……なんやの、このバグの群れ。いくらデリートしても、全く数が減らへんやんか。それに、動きが完全に非論理的や」


 凉子の伊達眼鏡のヘッドマウントディスプレイには、絶え間なく赤い警告サインが明滅し続けていた。彼女の持つ人間離れした演算処理能力をもってしても、数百という異常な速度で(うごめ)き、壁や天井の三次元空間を不規則に飛び回る生体反応の全てを完全に予測し、回避ルートを弾き出すことは物理的な限界に近づいていた。


『――凉子様、危険です! 左翼、九時方向の天井の鉄骨! 霊的ステルス能力を持つ個体が、貴女の死角から急接近しています!』


 青木ヶ原樹海の入り口、深い闇に紛れて停められた特殊ステルス車両。その後部座席を改造した移動ラボラトリーの中から、無数のモニターを監視する詫間亨の、悲痛なまでの警告の声が通信機から飛び込んできた。


「分かっとうよ、亨さん!」


 凉子は、補聴器が拾い上げた微かな空気の揺らぎと、僅かな塵の動きだけを頼りに、自らの頭上へと一切の迷いなく電流鞭を打ち上げた。だが、必殺であるはずのその青い光の鞭は、何の手応えもなく虚しく空を切った。


「……消えた!?」


 敵は、ただの光学迷彩ではない。地獄の番人『虚無』の力をその身に纏い、物理的な実体と気配そのものを、完全に周囲の空間に溶け込ませていたのだ。凉子の完璧な論理(ロジック)が弾き出した座標の、さらに次元の裏側。その一瞬の演算の遅れを突き、完全にステルス化した一人の少女が、天井の太い梁から凉子の無防備な背中へ向けて、音もなく、そして一切の殺気も放たずに、鋭いサバイバルナイフを構えて飛びかかってきた。


「お嬢様ッ! 右翼、三時方向から異常な高エネルギーの呪詛反応が来やすぜ! よけてくだせえ!」


 同時に、孝子の足元の影からも、ガーディの切羽詰まった絶叫がドーム内に響き渡った。


「え……?」


 孝子が忌ま忌ましげに視線を向けた先では、先ほど自らの手で両断し、床に転がっていたはずの少年の上半身が、まるで怨霊のように腕の力だけでズリズリと這いずり寄り、その(あご)が外れるほどに口を大きく開けていた。

 そこから、地獄の『飢餓』の力そのものとも言える、周囲の生命力を根こそぎ貪り食うドロドロとした真っ黒な瘴気が、弾丸のような恐ろしい速度で孝子に向かって吐き出された。


「この、薄汚いゴミが……!」


 孝子は咄嗟に電光剣の刀身を盾にして、その黒い瘴気を受け止めた。だが、圧倒的な熱量を持つはずの赤い炎の刃が、黒い瘴気に触れたそばから、まるで冷水を浴びせられた炎のようにジュウウと音を立てて勢いを失い、急速に侵食され、飲み込まれていく。

 圧倒的な物量と、法則を無視した理不尽な死角からの攻撃。

 東の魔女と西の堕天使、二人の天才的な少女殺し屋が、同時に絶体絶命の窮地に立たされた。

 その瞬間、二人は、互いの魂に刻み込まれた強烈な嫌悪感と絶対的な殺意を、ほんのコンマ一秒だけ、生存本能の奥底へと無理やり押しやった。


「――邪魔ですわッ!」


 赤い閃光が、凉子の背後に飛びかかろうとしていたステルス状態の少女を、真横から凄まじい勢いで唐竹割りに両断した。孝子の放った電光剣の最大出力の斬撃が、空間ごと相手を()き斬り、間一髪のところで凉子の背中を守ったのだ。


「――あんたこそ、どんくさいんやわ!」


 青い稲妻が、孝子の眼前まで迫っていた黒い瘴気の弾丸を、その発生源である少年の上半身ごと、横殴りに激しく薙ぎ払った。凉子の振るった電流鞭の超高圧プラズマが、瘴気を瞬時に蒸発させ、孝子を魂の浸食から救い出したのだ。


「「…………ッ」」


 互いに、最も憎悪する相手の窮地を救ってしまった。

 いや、正確には違う。「わたくし(私)の極上の獲物を、あんな薄汚いバグどもに横取りされてなるものか」という、二人の持つ強烈すぎるエゴと傲慢さが、結果的に相手の致命的な死角をカバーする形となってしまったのだ。

 その事実に、二人の表情が、この日一番の耐え難い屈辱と不快感に激しく歪んだ。だが、周囲を数百の生体兵器に完全に包囲されているこの絶望的な状況下において、二人は自然と、最も死角の少ない陣形――互いの背中合わせの形を取らざるを得なかった。


「……いいですわ。一時休戦としたるわ、忌ま忌ましい地獄のネズミさん。あんたの背中、ごっつい気持ち悪いけどな」


 凉子が、背中越しに氷のような冷気を孕んだ声で吐き捨てた。


「光栄の至りですわ、血の通わない堕天使様。ですが、もしわたくしの背中に傷一つでもつけたら……」


 孝子が、千枚通しを逆手に持ち替え、狂気的な笑みをさらに深くする。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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