仕組まれた神隠し㈢
「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!
亨がキーボードを叩くと、モニターに日本地図が表示され、横浜、神戸、大阪、名古屋、福岡といった主要都市に、真っ赤な警告のドットが次々と点灯し始めた。
「この三週間で、全国の主要都市において、合計五十名以上ものティーンエイジャーが、文字通り『神隠し』に遭ったかのように痕跡一つ残さず姿を消しています。警察のシステムはこれを個別事案として処理しようとしていますが、彼らの背後には、警察の捜査網すらも欺き、デジタル上の痕跡を完全に消去するほどの、極めて高度なハッキングと隠蔽工作のネットワークが存在しています」
「……五十名以上。それが、特定の条件を満たしていると?」
凉子の瞳に、データ解析者のような鋭い光が宿る。
「ええ。私が独自のアルゴリズムで失踪者たちのパーソナルデータを照合した結果、恐ろしい共通点が浮かび上がりました。彼らは全員が、IQが異常に高い、あるいは芸術やスポーツの分野で突出した『異能とも言える才能』を持つ若者たちです。……しかし、その一方で、彼らのSNSの裏アカウントや、心療内科のカルテデータをハッキングして解析した結果、全員が『家庭環境への絶望』や『社会に対する強烈な疎外感』といった、極めて深い心の闇――我々の言葉で言えば、精神的な『脆弱性』を抱え込んでいたことが判明しました」
才能と、心の闇。
亨の報告を聞き、凉子はゆっくりと椅子から立ち上がり、モニターの赤い点滅を見つめた。
「……つまり、これは単なるランダムな誘拐や家出ではない。何者かが、明確な意図と基準を持って、この日本のシステムの中から、特定の才能を持つ若者たちだけを『選別』し、収集しているということですわね?」
「その通りです。そして、凉子様。……この失踪者リストの中に、高清水家の事業における最重要取引先である、関西の某財閥の令嬢の名前が含まれています。相手側から、非公式にですが、我々に極秘の捜索と救出の依頼が舞い込んできました」
「……めんどくさい話ですわね」
凉子は、深い溜め息をついた。
「ですが、この完璧な秩序で運行されるべき世界において、これほど大規模なシステムの改ざん(神隠し)を、わたくしの目の前で行う輩が存在することは、論理的に許容できまへん」
「私も同感です。そこで、この巨大な隠蔽ネットワークの深層をさらにハッキングし、彼らが通信に使用している暗号化プロトコルの痕跡から、ある一つの組織の名称を抽出することに成功しました」
亨がエンターキーを叩くと、モニターの赤い点滅が消え、漆黒の背景に、白と金でデザインされた、まるで宗教の紋章のような不気味なロゴマークが浮かび上がった。
「組織の名は、『アルカディア財団』」
亨の声が、静かなラボに冷たく響いた。
「表向きは、才能ある若者を支援する国際的な教育NPO法人を名乗っています。ですが、その実態は、世界中から特異な才能を持つ若者たちを非合法な手段で拉致・収集し、徹底的な洗脳教育を施した上で、海外の紛争地域や非合法な研究機関へと『最高級の生体兵器』あるいは『研究素材』として高額で転売している、極めて悪質なカルト・シンジケートです」
「才能の収集と、洗脳による転売……。本当に、美しくない。人間の欲望というものは、どこまでいっても非論理的で、吐き気がするほど醜悪なバグの塊ですわ」
凉子は、モニターに映る『アルカディア財団』のロゴを、まるで汚物を見るかのような目で見据えた。
「亨さん。わたくしの論理を乱す、この『アルカディア財団』という巨大なバグの巣窟の物理座標を、直ちに特定してちょうだい。わたくしの『雷』で、そのシステムの中枢ごと、塵一つ残さず完全にフォーマットしてやりますわ」
「御意に、凉子様。既に、彼らのネットワークの末端から、通信の逆探知を開始しております」
かくして、横浜の「東の魔女」と、神戸の「西の堕天使」は、それぞれ全く別の依頼と動機から、同じ「アルカディア財団」という巨大な闇の組織を標的として、静かに動き始めたのである。
互いへの強烈な殺意と嫌悪感を抱きながらも、彼女たちはまだ知らない。
この「仕組まれた神隠し」と、アルカディア財団への追跡劇そのものが、あの日、本牧埠頭で彼女たちを弄んだ謎の存在『神託』が周到に用意した、新たなる死のゲーム盤への招待状であるということを。
二つの決して交わることのない凶刃は、再び同じ場所へと、見えざる運命の糸によって引き寄せられようとしていた。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




