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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
第二章 樹海の不協和音(ディスコード)

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仕組まれた神隠し㈠

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 横浜港・本牧埠頭の第七D倉庫における、地獄の業火と天の雷光による絶望的なまでの衝突から、およそ三週間という時間が経過していた。

 季節は晩秋から初冬へと移り変わり、港町を吹き抜ける海風は日ごとにその冷たさを増し、道行く人々に厚手のコートの襟を立てさせている。あの日、二人の少女の恐るべき力の余波によって半壊し、神奈川県警のSAT(特殊急襲部隊)によって制圧された倉庫の凄惨な事件は、警察の上層部と裏社会の巨大な力が複雑に絡み合った結果、表のメディアでは「大規模な不法投棄コンテナの引火による爆発事故」という、あまりにも白々しく陳腐な偽装報道によって処理されていた。

 世間の関心はすぐに次のスキャンダルやゴシップへと移り、平和ボケした日常は、まるで何事もなかったかのように、その退屈で平穏な営みを再開している。

 だが、その偽りの平穏の裏側、冷たい水面下において。

 あの日、互いの存在を「絶対に消去すべき敵」として認識した二羽の異常な(からす)の魂には、決着のつかなかった苛立ちと、相手の命を刈り取らねばならないという底知れぬ殺意が、どす黒いマグマのように煮えたぎり続けていた。

 神奈川県横浜市中区、山手。

 歴史ある瀟洒(しょうしゃ)な洋館が立ち並び、枯れ葉が舞う石畳の道が続く高級住宅街の一角。(つた)の絡まる重厚なレンガ造りの塀に囲まれた北條(ほうじょう)家の自室において、北條孝子は、柔らかな日差しが差し込むアンティークの出窓のそばに腰掛け、優雅な手つきで純白のレースのハンカチに刺繍(ししゅう)を施していた。

 濃紺のセーラー服を身に(まと)い、黒髪のおかっぱを微かに揺らしながら、彼女は白魚のような指先で鋭い刺繍針を操っている。だが、その針が布地に突き刺さるたびに、彼女の漆黒の瞳の奥には、およそこの穏やかな休日の昼下がりには似つかわしくない、猟奇的でサディスティックな光がチカチカと点滅していた。


(……ああ、本当に。思い出すだけで虫酸(むしず)が走りますわ)


 孝子は、針を引き抜く動作を一時止め、忌ま忌ましげにため息をついた。

 彼女の脳裏にこびりついて離れないのは、本牧埠頭の暗闇の中で見た、あの無機質で血の通っていない青白い雷光と、それを操っていた「青い稲妻」――高清水凉子の、まるで感情というものを一切持ち合わせていないような、精巧なガラス人形のような冷たい顔だった。


(命を終わらせるなら、一瞬でデリートすれば済むこと……ですって? なんという浅薄で、芸術性の欠片もない無粋な論理かしら。相手の肉体と精神の境界をゆっくりと削り取り、恐怖と絶望でその顔が醜く歪み、泣き叫ぶ極上の悲鳴を響かせてこそ、命を奪うという行為は至高の芸術へと昇華されるというのに)


 孝子は、手元のレースのハンカチを、ギリッと音を立てて強く握りしめた。

 彼女が地獄の底で、数え切れないほどの無限の時間をかけて耐え抜き、そして自らの魂の底に見出した「究極の苦痛」の美学。それを真っ向から否定し、ただ無価値なバグとして一瞬で消去しようとするあの堕天使の存在は、孝子の気高き尊厳に対する最大の侮辱であった。


「次にお会いした時は、必ず……あの澄ました人形の顔をわたくしの『針』で二度と元に戻らぬように切り刻み、この世の終わりのような絶望の音色を奏でてさしあげますわ。……ふふふ、ええ、必ず」


「……お嬢様。ずいぶんと物騒な独り言でございますな」


 不意に、孝子の足元に落ちていた出窓の影が、まるで意思を持ったコールタールのようにズルリと(うごめ)き、壁を這い上がって、長身痩躯の執事の姿を形作った。

 顔の半分を常に不気味な影に覆われた元・地獄の番人、ガーディである。彼は漆黒の執事服の皺を優雅に払いながら、(うやうや)しく一礼した。


「ごきげんよう、ガーディ。あなたこそ、わたくしの楽しい空想を邪魔するなんて、無粋な真似はおよしになって。……それで? あの『神託(オラクル)』と名乗る得体の知れない輩や、あの忌ま忌ましい青い光の女について、何か新しい情報は掴めまして?」


 孝子が冷ややかな声で問うと、ガーディは凶悪な眼光を潜め、ひどく苦渋に満ちた表情で首を横に振った。


「申し訳ございませんぜ、お嬢様。私が持つ地獄の『目』と『耳』の全てを総動員して、日本中の裏社会のネットワークや、霊的な残滓が吹き溜まる冥府の出入り口まで嗅ぎ回っておりますが……あの夜以降、あの『神託』の気配も、あの『秩序』の女の匂いも、まるでこの世から蒸発してしまったかのように、ぷっつりと途絶えておりやす。奴ら、完全に我々の探知網の外側で、息を潜めて擬態しやがったようですぜ」


「まあ。わたくしの追跡から逃げおおせたつもりかしら。本当に、腹立たしいネズミどもですわね」


 孝子は、刺繍針をハンカチの布地へと、苛立ちに任せて深々と突き立てた。


「ですが、お嬢様」


 ガーディは、影の輪郭を微かに揺らめかせながら、声を一段階低く、粘着質なものへと変えた。


「奴らの尻尾は掴めませんでしたが……その代わり、少々厄介で、ひどく薄気味の悪い事案が、この関東一円の裏社会で起き始めておりやすぜ」


「薄気味の悪い事案、ですって?」


「へっ。ええ。お嬢様もご存知の通り、関東鋭爪会(かんとうえいそうかい)といえば、泣く子も黙るこの辺り一帯の絶対的な支配者です。その関東鋭爪会の最高幹部の一人が溺愛していた一人息子が……三日前の夜、忽然(こつぜん)と姿を消したんでさァ」


「誘拐ですの? 身代金の要求でもあったのかしら。それとも、敵対組織の報復?」


 孝子は興味なさそうに、紅茶のカップへ手を伸ばした。


「それが、違うんですぜ。身代金の要求は一切なし。現場に争った形跡も、血の一滴すら残されていねえ。ただ、部屋のベッドから、まるで煙のように綺麗に消え失せた。……さらに気味の悪いことに、私がその部屋を霊的にスキャンしても、人間の恐怖や怨念といった、拉致の際に必ず残るはずの『魂の摩擦痕』が、全く検知できねえんでさァ」


「まあ。霊的な痕跡すら残さない……神隠し、とでもおっしゃるの?」


 孝子の黒い瞳に、わずかな好奇の色が浮かんだ。

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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