月下の激突㈠
「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!
午前二時。神奈川県横浜市、本牧埠頭。
かつては東洋一の貿易港として栄華を極め、昼夜を問わず活気に満ち溢れていたこの場所も、深夜のこの時間帯になれば、冷たい潮風と絶対的な静寂だけが支配する巨大な鉄の墓場へと姿を変える。
海からの容赦ない吹きさらしの風が、林立する巨大なガントリークレーンの鉄骨を不気味に鳴らし、高く積まれた無数のコンテナの隙間を縫って、ヒュウヒュウと幽鬼の悲鳴のような音を立てていた。分厚い雲の切れ間から時折覗く青白い月明かりが、海面を冷たく照らし出し、錆びついた第七D倉庫の巨大なシャッターに、長く歪な影を落としている。
その巨大な倉庫の内部は、外の静寂とは打って変わり、およそこの世のものとは思えない、吐き気を催すほどの悪徳と下劣な欲望の匂いが充満していた。
天井から吊された水銀灯の無機質な光の下、数十名の完全武装した男たちが、油断なく周囲を警戒している。彼らは日本の裏社会に寄生する独立系の暴力団員たちであり、その中心には、仕立ての悪いスーツを着た数人の東南アジア系バイヤーの姿があった。
彼らの視線の先、倉庫の中央に置かれた大型コンテナの観音開きの扉が全開にされている。その中には、麻袋のように無造作に放り込まれ、手足を結束バンドで縛られ、口をガムテープで塞がれたおよそ三十名の少年少女たちが、恐怖と寒さに震えながら身を寄せ合っていた。彼らこそが、今夜この場所で取り引きされる「商品」である。
「ほう、今回のロットはなかなかの極上品揃いだな。臓器のドナーにするにはもったいないくらいだ。富裕層の愛玩用として、かなり良い値がつくぞ」
バイヤーの一人が、怯える少女の顔を懐中電灯で照らしながら、下卑た笑い声を上げた。
「へへっ、もちろんでさァ。俺たちが全国から特別に『選別』して集めた特上品ですからね。さあ、とっとと代金のトランクを確認させて――」
ヤクザの幹部が揉み手をして歩み寄ろうとした、まさにその瞬間だった。
ギイィィィィィン……ッ!
倉庫の入り口である重厚な鉄の扉が、まるで目に見えない巨大な怪物の爪によって内側から引き裂かれたかのように、不気味な金属音を立ててひしゃげ、吹き飛んだのである。
「な、なんだッ!?」
ヤクザたちが一斉にアサルトライフルや拳銃を構え、土煙が舞う入り口へと銃口を向け。
舞い散る埃と冷たい夜風の中から、コツ、コツ、と、革靴がコンクリートを叩く、およそこの場には似つかわしくない軽やかで優雅な足音が響いてきた。
「まあ、なんて下品で吐き気のする匂い。ドブネズミの深夜の集会には、実にお似合いの泥臭い場所ですわね」
土煙が晴れたそこに立っていたのは、濃紺のセーラー服に身を包み、艶やかな黒髪のおかっぱを夜風に揺らす、一人の美しい少女であった。
北條孝子。
彼女の白く滑らかな肌は水銀灯の光を受けて真珠のように輝き、その顔には、一輪の白百合のように楚々とした、しかし背筋が凍るほどに残忍な微笑みが浮かんでいた。
「なんだぁ、このガキは? 迷子か? それとも、自分から商品になりに来たってのか?」
男たちが嘲笑しながら銃を構え直す。だが、孝子は全く動じることなく、背後に広がる真っ黒な影に向かって囁いた。
「……ガーディ。随分と威勢のいいネズミたちですわ。わたくしの美しい声が聞こえないほど、耳まで腐っていらっしゃるのね」
「へっ。お嬢様の仰る通りで。どいつもこいつもしばらく風呂に入ってねえのか、魂の底から悪臭が漂ってきやすぜ。私が残らず挽き肉にして、海に撒いてやりましょうか?」
孝子の足元の影がズルリと蠢き、漆黒の執事服に身を包んだ長身痩躯の男、ガーディが姿を現した。顔の半分を影に覆われた元・地獄の番人は、その凶悪な眼光で男たちをねめつける。
「お戯れを、ガーディ。彼らは、わたくしがこの退屈な日常の鬱憤を晴らすための、大切なおもちゃですの。……さあ、皆様。これより、わたくしによる極上の『お稽古』の時間を始めさせていただきますわ」
孝子がセーラー服のポケットから、氷のように冷たく光る千枚通しを取り出した瞬間、男たちの一人が引き金を引いた。
パパンッ!
だが、弾丸は孝子の体をすり抜けるように虚空を切り裂いただけだった。ガーディの影の力が空間を歪め、彼女の肉体を物理法則からわずかにズラしたのだ。
「遅いですわ」
次の瞬間、孝子は弾丸を撃った男の背後に立っていた。
「……っ!?」
男が振り返る暇も与えず、孝子は白魚のような指先で千枚通しを握り、男の第4頸椎の隙間へと、正確無比に突き立てた。
ビクンッ、と男の体が跳ねる。急所を的確に外し、痛覚を司る神経の束だけを破壊し、そして極限の地獄の苦痛を脳髄に直接流し込む究極の一撃。
「あ……が、ァ……ァァァァァッ!」
男は白目を剥き、口から泡を吹きながら、コンクリートの床に崩れ落ちた。死ぬことはできない。ただ、全身を業火で焼かれ、同時に無数の針で内臓をかき回されるような狂気の痛みに、数時間かけて苛まれ続けるのだ。
「撃て! 化け物だ! 殺せェッ!」
恐怖に駆られたヤクザたちが、一斉に発砲する。
「あらあら。もう少しお淑やかに遊べませんこと? ……仕方ありませんわね」
孝子は、ガーディから受け取った黒いグリップのスイッチを入れた。
シュゥゥゥッ!
極限まで圧縮された地獄の業火が、禍々しい赤い光の刃となって迸る。電光剣の出現と共に、倉庫内の温度が爆発的に上昇した。
「泣き叫びなさいあそばせ!」
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




