グリッドと腹ペコのきゅーさ
私は静かに息を吐き、背中を木に預けた。全身が小刻みに震えているのが自分でも分かった。
「……まだ、死にゃしない……」
『そうね、それでいい』 きゅーさは少しだけ落ち着いた、だがまだ緊張した声で言った。『今は動かないで。血を止める方法を考えてるから……』
数分が経った。血の流れは確かに少しずつ緩やかになっていた。強く押さえていたからか、それとも体がようやく持ち直し始めたからか。
『……それでも最悪だわ』 きゅーさは小さく舌打ちした。『お前、ただの凶暴なウサギにやられるところだったのよ。システム全体の恥ね』
私は弱々しく、歪んだ笑みを浮かべた。
少し時間が経つと、痛みが少し引いてきた。手と足はまだ疼いていたが、少なくとも意識が飛んでしまいそうなほどではなかった。私は三匹の死骸を眺めた。殺された後もなお、牙を剥き出している様は不気味だった。
「……肉は肉だ」 私は疲れた声で呟き、痛みを堪えながら這い寄った。
地面に落ちていた鋭い石を拾い、ぎこちなく最初の死体を解体し始めた。手は震え、血で滑るように、作業は非常にやりづらかった。だが、以前肉屋でバイトをしていた経験が、どこかで役に立っていた。
『……本気でやる気なの?』 きゅーさは明らかに嫌悪感を込めて言った。
「食うしかないだろ」 私は短く答え、後ろ脚を切り離そうとした。「こいつらに食われかけたんだ。せめて、こっちが利用してやる」
作業は遅く、汚かった。石の角で何度か自分を傷つけてしまい、歯を食いしばりながらも手を止めなかった。皮を剥ぎ、内臓を抜き、比較的食べられそうな大きさに肉を切り分けた。
三匹目を終えた頃、私は後ろに体を預け、血まみれの手を草で拭った。目の前にはそこそこの量の新鮮な肉が積まれていた。
「……三匹は多すぎるな」 私は独り言のように呟いた。「全部一度に食ったら、残りは腐る……どうにか保存しないと」
周りを見回し、大きめの固い葉を何枚か摘んだ。丁寧に汚れを拭き取り、肉を包み始めた。できるだけ空気を抜くように、きつく巻き、葉の上から石で押さえた。
『……意外と上手なのね』 きゅーさは少し驚いた様子で言った。
「以前、肉のバイトしてたからな……ただし、ビニールと冷蔵庫があったけど」
包み終えると、私はそれを少し離れた木の根本の影に置いた。
「匂いはするだろうな……夜は交代で起きるか」
私は再び最初の焚き火の跡に戻り、枯れ枝をくべた。火が再び息を吹き返した。
一本の後ろ脚を適当な枝に刺し、簡易的な串を作って火にかけた。残りの肉は保存用に取っておく。
火が肉を炙り始める頃、私は少し離れた場所にあった赤黒い実のなる低木を思い出した。摘んできて、手のひらで潰すと、酸っぱい汁と果肉がべっとりと付いた。それを肉に塗りつける。
『何してるの?』 きゅーさは興味深そうに聞いた。
「味を付ける。こうしないと、ただの獣肉だ」
きゅーさは少しの間沈黙した後、くすりと笑った。
『……その場しのぎで調味料作るなんて、なかなか面白いわね』
私は肉を回しながら火加減を見ていた。すると、きゅーさの声が再び響いた。
『待って。あの低木の近くに生えてる草、見える? 小さい葉っぱのやつ。スキャンしたけど、毒はないみたい。成分的に言うと、君たちの世界で言う「コリアンダー」に近いみたいよ。試してみなさい』
言われた通りに草を摘み、細かくちぎって肉の上に振りかけた。
やがて、肉の表面が綺麗に焼き色がついた。私は串から肉を外し、ちぎって口に運んだ。
その瞬間、きゅーさの声が頭の中で長く、震えるような吐息と共に響いた。
『……んんんんんんっ!! これは……これはすごい……! ジューシーで、酸味があって、草の香りもする……本物の味がする……!』
私は無言で肉を噛みしめた。きゅーさは頭の中で、まるで初めて本物の食べ物を味わうかのように、延々と感嘆の声を上げ続けていた。
肉を食べ終えると、私は重い体を後ろに預けた。疲労が一気に押し寄せてくる。
「……今日はもういい。寝よう」
私は一本のウサギの皮を地面に敷き、もう一枚を体に被せた。ゴワゴワして刺々しい感触だったが、少なくとも冷たい地面に直接触れるよりはマシだった。
『……おやすみなさい、グリッド』 きゅーさは珍しく柔らかい声で言った。『ゆっくり休んで。何かあったら起こすから』
「……おやすみ、厄介者……」
私は目を閉じた。焚き火の音、葉の擦れる音、遠くの夜の虫の声……そして頭の中にいる、いつものように口うるさい、だがもうすっかり馴染んでしまった存在。
その感覚を抱いたまま、私はようやく深い眠りに落ちていった。




