毛皮の怪物たち
きゅーさは一瞬、言葉を詰まらせた。そして、いつもの意地悪さのない、少し静かな声で言った。
『……殺し方、教えてあげようか?』
「早く言え!」 私は後ずさりながら、太い枝を強く握りしめた。
『頭を狙え。頭蓋骨が弱い。でも……私も驚いてる。本当に見たことないから。データじゃなくて』
そのうちの一匹が、突然飛びかかってきた。
「うわあああああっ!」
私は恐怖のあまり叫びながら、力いっぱい枝を振り下ろした。振り方が乱暴だったが、なんとか当たった。ウサギのような生き物は悲鳴を上げて吹き飛んだ。
私は荒い息を繰り返し、手が震えていた。
『……当たった』 きゅーさは珍しく静かに言った。その声には、いつもの皮肉ではなく、ただの驚きがあった。『私……本当に今これを見てる。データじゃなくて、実際に』
二匹目が、私の足に飛びついてきた。鋭い牙がふくらはぎに食い込む。
「ぐああああっ!!」
私は片膝をつき、パニック状態で枝を叩きつけた。一、二、三……五回目でようやく動きを止めた。
三匹目が、今度は私の顔めがけて飛びかかってきた。
私は反射的に腕で顔を覆い、叫んだ。生き物が前腕に噛みつき、皮膚を裂いた。
『ご主人様、パニックになるな! 私がスキャンしてる! 首が弱い! 首を狙え!』 きゅーさの声もわずかに震えていた。
私はその生き物の耳を掴み、力いっぱい木に頭を叩きつけた。一、二、三……四回目でようやくぐったりと動かなくなった。
私はその場に崩れ落ち、荒い息を繰り返した。全身が震えていた。手には自分の血と、相手の血がべっとりと付着している。
きゅーさは約十秒ほど、沈黙した。
やがて、どこか呆然としたような声で呟いた。
『……私はこれを、本当に見たことがなかった。ただのデータとして読んだり、記録を見たりしただけだ……でも今、私は血の匂いを感じてる。そしてお前の痛みも……これって……すごく変だ。本当に変だ』
私はゆっくりと体を起こし、三匹の死骸を眺めた。
「……俺たち、殺したな」 私は掠れた声で言った。
『私たち、だよ』 きゅーさは静かに言った。『お前が殴った。私はスキャンして、どこを狙えばいいか教えた。だから……私たちは一緒にやった。タンデムだ』
少し間を置いて、彼女は少しだけ柔らかい口調で続けた。
『お前は英雄じゃない。私は戦闘システムでもない。でも、一緒なら……生き延びられるかもしれない』
私は自分の震える、血まみれの両手を見て、静かに息を吐いた。
「……こんなの、嫌だ。俺は殺したくない」
『分かってる』 きゅーさは静かに答えた。『でもこの世界は、お前の気持ちなんて聞いてくれないみたいだ』
その時、私はようやく自分の状態に気づいた。左前腕と右脚の深い傷から、かなり大量の血が流れ出ていた。ズボンはすでに血でびしょ濡れになっていた。
きゅーさは再び、急に声を荒げた。
『ご主人様!! お前、血を流しすぎだ!!』
私はぼんやりと彼女の声を聞いた。頭の中が重くて、思考がまとまらない。
『おい! 気を失うな! 聞こえてるか!? グリッド! 却下英雄のクソ野郎! 今、気を失ったら許さないぞ!』
きゅーさの声はどんどん大きくなり、ほとんど叫び声になっていた。
『本気かよ!? さっきまであんな化け物ウサギと戦ってたのに、今度は血を流して死ぬつもりか!? 自分の腕を見てみろ、バカ! 前腕から血が噴き出してるんだぞ!』
私はゆっくりと腕を上げた。確かに、血がかなり勢いよく流れ出ていた。
「……あ……」 私はようやく小さく声を漏らした。それ以上、まともに言葉が出なかった。
『「あ」じゃない! 動け、このバカ! 傷を押さえろ! 綺麗な布がなくてもいい! 自分のシャツでいいから、早く!』
私は立ち上がろうとしたが、脚がうまく力が入らず、再び地面に座り込んでしまった。視界の端が徐々に暗くなり始めていた。
きゅーさはもうほとんど叫んでいた。
『おい! 目を閉じるな! 聞こえてるか、グリッド!? 今死んだら……私は……私はどうすればいいんだよ!? とにかく、目を開けろ、このクソ野郎!』
彼女の声は頭の中で響き続け、私を強引に意識の中に留めようとしていた。
『お前は、こんなクソみたいなウサギどもとの戦いの後で、ただ血を流して死ぬ権利なんてないんだよ! 分かったか!? 立て! 私は命令してるんだ! ご主人様、立て、このバカ!』
私は弱々しく笑った。笑顔は歪んでいた。
「……お前……そんなに……心配してるみたいだな……」
『うるさい、立て!』 きゅーさはほとんどヒステリックに叫んだ。『私は、ただの却下英雄に血を流して死なれるために、お前にくっついたわけじゃない! 動け!』
私は震える手で、傷口をシャツの端で押さえた。血はまだ流れていたが、少し勢いは弱まっていた。
きゅーさはまだ頭の中で騒いでいた。
『そうだ……そのまま、ゆっくり息をしろ。目を閉じるな。私はここにいる。お前を置いてなんて行かないから……分かったな?』
私はゆっくりと背中を木に預け、静かに息を吐いた。
「……行かないよ……まだ……」
『それでいい』 きゅーさは少しだけ落ち着いた声で言った。『今は動くな。血を止める方法を考えるから……』




