「支配、レベル1」
私は目を開けた。太陽の光が直接顔に当たっていた。木々の隙間から差し込む光が、容赦なく私の目に降り注いでいる。
私は顔をしかめ、ゆっくりと体を起こした。全身が重く、腕と脚の傷がまだ鈍く疼いている。昨日よりはマシだが、それでもかなり痛みは残っていた。
『お、おはよう……やっと起きたんだ』
頭の中で聞き慣れた声が響いた。昨夜ほど張りつめていた感じはなく、少しだけ落ち着いた響きだった。
私は顔を掌で軽く擦った。
「……どれくらい寝てた?」
『かなり長くね。もうお昼近くよ』キューサが答えた。『何度か起こそうとしたけど、全然起きる気配がなくてさ。昨日は本当に疲れ切ってたみたい』
私は昨夜肉を隠した場所に視線を向けた。葉は動かされておらず、そのままの状態だった。どうやら夜の間に誰かが近づいてきた様子はない。
私は立ち上がり、肩から滑り落ちた毛皮を拾い上げた。周囲を見回すと、森は静まり返っていた。……いや、ただ静かなだけじゃない。妙に張りつめた静けさだった。
「動かないと危ないな……ここに長居するのは良くない」
『そうね』キューサが素早く同意した。『でもその前に……』
彼女は少しだけ言葉を濁した。
『……もう少し肉、食べてもいい?』少しだけ照れくさそうな声で言った。『昨日……すごく美味しかったから。今朝起きたら、なんかお腹が空っぽみたいで……』
私は小さく鼻で笑った。
「お前、本当に食えないくせに、そんなに欲しがるんだな」
『わかってるよ』キューサは少し不満げに答えた。『でも……あなたが食べると、味や匂い、ちょっとした感触まで感じるの。すごく……不思議で、気持ちいいの』
私は隠しておいた肉の方を見た。昨日は一本の脚しか食べていない。残りはまだ葉に包まれたままだった。
「……わかった。少しだけなら食べよう。でも全部じゃない。残しておかないと」
私は一つの包みを開け、鋭い石で肉を切り取った。そして小さく火を起こし、昨日と同じ簡易的な串に肉を刺して焼き始めた。
肉が焼けていく間、私は倒れた木に腰を下ろし、自分の腕を見た。傷は少しずつ塞がりかけているが、まだ綺麗とは言えない状態だった。
『……大丈夫なの?』
突然、キューサが聞いた。
私は少し驚いて聞き返した。
「何が?」
『いや……昨日は本当に危なかったのに、今日は「大丈夫」って普通に言ってるから』
私は少しの間、言葉を探した。
「……慣れてるよ。前の世界でも、こんなもんだったから」
キューサは少し長い沈黙を置いた。
『……変な人』やがて、彼女は小さく呟いた。『普通の人ならパニックになるか、ショック状態になるのに……あなたはただ、淡々と生き延びようとしてる』
私は口の端をわずかに持ち上げた。
「大げさに慌ててたら、余計に死ぬのが早くなるだろ。だから慌てない方がいい」
『……なるほどね』キューサは静かに呟いた。
肉の焼ける良い匂いが、森の中にゆっくりと広がっていく。
私は串を回しながら、静かに言った。
「少し食べたら、ちゃんと移動するぞ。ここに長居するのは危ない」
キューサは少しの間、答えなかった。
やがて、いつものような少し意地悪な声で言ってきた。
『だったら、早く焼いてよ、旦那様。私はお腹が空いてるんだから』
私は小さくため息をついた。
「また『旦那様』か……」
『慣れなさいよ』キューサはくすくすと笑った。『あなたが嫌がる顔を見るのが、意外と楽しいの』
私は再び串を回しながら、静かに肉を焼き続けた。
私は小さく息を吐き、串を回し続けた。キューサは少しの間黙っていたが、まだどこか納得いかない様子だった。
『……本当にそんなに冷静なの?』
やがて彼女が言った。『新しい世界に来て、死にかけて、殺人ウサギに襲われて、それに今は変なスキルまで手に入れてるのに。普通の人なら、もう少し動揺すると思うけど』
私はすぐには答えなかった。焼けていく肉を見てから、自分の血まみれの手を見下ろした。
「常に慌てたり、『どうして自分だけが』って考え続けていたら、すぐに死ぬだろ」私は静かに言った。「次に何をすべきかを考える方がマシだ。残りは……後回しでいい」
キューサは再び少し長い沈黙を置いた。
『……変な人』やがて、彼女は小さく呟いた。『普通ならパニックになるか、ショックを受けているはずなのに……あなたはただ、淡々と生き延びようとしてる』
私は口の端をわずかに持ち上げた。
「大げさに慌ててたら、余計に死ぬのが早くなる。だから慌てない方がいい」
『……なるほどね』キューサは静かに呟いた。
肉がようやく焼き上がった。私は串から肉を外し、少し冷ましてから一口かじった。キューサはまたしても頭の中で満足げな声を上げた。
『……ん。やっぱり美味しい。昨日ほど熱々じゃないけど』
私たちは無言で肉を食べた。私は半分より少し多めに食べ、残りはあまり食欲がわかないまま平らげた。食べ終わると、手を草で拭いて残りの肉を見た。
「……もう十分だ。動かないと」
私はクリーチャーの毛皮を一枚取り、端を縛って簡易的な袋のようなものを作り、そこに残りの肉を入れた。残りの毛皮と牙も一緒に詰め込んだ。持ち運びには不便だが、手で持つよりは遥かにマシだった。
私たちは歩き始めた。
森はどんどん深くなっていく。道らしい道はなく、木々の間を縫うように進むしかなかった。地面は苔と落ち葉で厚く覆われており、ここに長い間誰も入っていないような雰囲気だった。高い木々、濃い緑、木漏れ日……状況が違えば、むしろ気持ちのいい散策だったかもしれない。
『旦那様』
突然、キューサが声をかけてきた。
「何だ?」私は立ち止まらずに答えた。
『レベルが上がったよ』
私は足を緩めた。
「……何が?」
『スキル『支配』が、レベル1になった』
私は眉を寄せた。
「待て。今のはゲームみたいに、レベルとかスキルがあるってことか? 本気で言ってるのか?」
『冗談じゃないよ』キューサは冷静に答えた。『システムから通知が来た。スキル『支配』がレベル1に上がった』
私は森の真ん中に立ち、どこでもない空間を見つめた。頭の中が少し混乱していた。
「それがどういう意味だ? 何ができるようになるんだ? どうやって使うんだ? それに、もっとレベルが上がるってことか? いったい何が起きてるんだ?」
キューサは少しの間、沈黙した。
『……今のところ、スキルがレベル1になったことしか分からない。詳しい説明はシステムから出ていない。でも、名前と、昨日あなたがあのウサギたちと繋がったことを考えると……効果はレベルが上がるごとに強くなっていくと思う』
私は顔を掌で覆った。
「つまり俺は今、『支配』とかいうクソみたいなスキルを強化してるってことか? お前ですら、それが何をするスキルか分からないんだろ?」
『……今のところはね』キューサは正直に認めた。『でも調べてみるよ。システムは私じゃなくてあなたに反応してるみたいだから、結局はあなた次第だと思う』
私は重く息を吐き、自分の手を見つめた。
「……最高だな。異世界に飛ばされて、ウサギに殺されかけといて、今度は『支配』スキルまで強化してる。完全にクソだ」
キューサは小さく笑った。
『まあ、退屈はしないね』
「黙れ」




