空語の輪郭
識の言葉を聞いた瞬間、白い存在たちの輪郭が少しだけはっきりした。
紙みたいに薄い。人の形に近い。だが、中身がない。
言葉の裏に貼りついて、意味の代わりに、そこにいる。
透真はもう一度ビジョンを見た。
自由。成長。本質。
どれも、もともとは嫌いな言葉じゃない。むしろ必要な言葉だと思っていた。
なのに今は、その裏に空っぽなものがいる。
透真
「意味を失った言葉、ですか」
識
「はい」
透真
「でも、意味がないなら、人は動かないんじゃないですか」
識
「意味はなくても、響きは残ります」
透真
「響きだけで、人が動く?」
識
「はい」
透真
「……嫌な話ですね」
識
「響きだけの方が、扱いやすいことがあります」
透真は、思わず黙った。
扱いやすい。
その言葉だけが、妙に仕事の感触を持っていた。
会議で使われる言葉。資料に並ぶ言葉。誰も反対しにくい、綺麗な言葉。
透真
「それは、人を騙しているということですか」
識
「いつも、そうとは限りません」
透真
「じゃあ、何なんですか」
識
「人が、自分で自分を動かすために使うこともあります」
透真
「…自分で」
識
「はい。自由。成長。本質。自分らしさ」
識は大型ビジョンを見上げた。
識
「どれも、本当は悪い言葉ではありません」
透真
「それは、わかります」
識
「だから危険です」
透真
「……いい言葉だから、危ない」
識
「はい」
透真は苦笑した。
透真
「さっきから、納得したくない説明ばかりですね」
識
「納得しなくていいです」
透真
「いいんですか」
識
「まずは、見てください」




