表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/28

挿絵(By みてみん)

女は、少しだけこちらを見た。


視線がぶつかった気がした。


だが次の瞬間には、透真の奥の、まだ自分でも気づいていない違和感を読まれている気がした。


女は、ごく自然に名乗った。


しきと呼ばれています」


透真


「呼ばれています、なんですね」


「はい。自分でそう決めたわけではありませんから」


透真

「それは……少し寂しい言い方ですね」


識は、少しだけ目を伏せる。


「寂しい、ですか」


透真

「違います?」


「……まだ、わかりません」



透真は一度、雨の交差点を見た。

それから、なるべく失礼にならないように言葉を選んだ。


透真

「すみません」

「たぶん大事な話なんだと思うんですが、今の俺には少し難しいです」


識は、責めるでもなく、ただ静かに頷いた。


「ですが、今は名前より、あちらの話をしましょう」



識は大型ビジョンを見上げた。


剥がれかけた白い文字。

その裏にいる、空っぽな顔。


「あれは、空語です」


透真

「くうご……ですか」


「はい」


透真

「初めて聞く言葉です」


「普通は、聞かなくていい言葉です」


透真は少し困ったように笑った。


透真

「できれば、聞かないまま済ませたかったですね」


「多くの人は、済ませています」


透真

「でも、俺は見てしまった」


「はい」


透真は、大型ビジョンを見上げた。


自由。

成長。

本質。


その裏に、白いものがいる。


透真

「空語って、何なんですか」


「意味を失った言葉です」


透真は少し黙った。


透真

「中身のないスローガンとか、バズワードとか」

「そういう話に近いですか」


「入口としては、近いです」


透真

「入口、ですか」


「はい」


透真

「さっきから、その“入口”という言い方が少し気になります」


「気になるなら、向いています」


透真

「何にですか」


「この先を見ることに」


透真は返事に困った。


冗談のようにも聞こえた。

けれど、識の声には冗談の響きがなかった。


透真

「……正直、全然わかっていません」


「はい」


透真

「でも、あれがただの広告じゃないことは、わかります」


「それで十分です」


透真

「十分なんですか」


「最初は」


透真は、もう一度白い異形を見上げた。


透真

「じゃあ、最初のところからお願いします」

「あれは、意味を失った言葉なんですね」


「はい」


透真

「でも、意味を失っているのに、人を動かしている?」


識は、ほんのわずかに目を細めた。


「そうです」


透真

「それは……なんだか嫌ですね」


「ええ」


識は静かに言った。


「だから、空語は危険です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ