白い髪の女
足元の水たまりの奥で、白い髪が揺れた。
透真は反射的に振り向く。
透真
「……誰だろう」
交差点の縁に、女が立っていた。
傘を差していない。
長い白髪。
深くフードのある黒い外套。
若い女に見える。
けれど年齢の感じ方が、妙に曖昧だった。
濡れているはずなのに、濡れていないように見える。
人々は彼女を避けない。
だが、ぶつかりもしない。
誰も、見ていないのだ。
白髪の女だけが、透真を見ていた。
正確には、透真そのものではなく、
透真の向こう側にある何かを見ているようだった。
透真
「……すみません」
女は、静かに透真を見る。
透真
「変な聞き方になりますけど」
「あなたには、あれが見えてるんですか」
女は、大型ビジョンの方へ少しだけ視線を向けた。
女
「はい」
透真は、ほんの少しだけ息を吐く。
透真
「よかった」
「いや、よくはないんですけど」
「俺だけじゃないなら、少しだけ助かります」
女は、透真を見た。
女
「見えているのは、あなたの方です」
透真は一瞬、言葉に詰まる。
透真
「……ええと」
「すみません、今のは、どういう意味ですか」
女
「多くの人には、見えていません」
透真
「それは、さっき何となくわかりました」
女
「でも、あなたは立ち止まった」
透真は大型ビジョンを見上げる。
透真
「立ち止まったというか……」
「立ち止まるしかなかったというか」
女は少しだけ首を傾げた。
女
「それで十分です」
透真
「十分?」
女
「見えても、通り過ぎる人はいます」
透真は、雨の中を流れていく群衆を見る。
透真
「……なるほど」
「いや、なるほどって言えるほど、わかってはいないんですが」
女の口元が、ほんの少しだけやわらぐ。
女
「順番に話します」
透真は少し迷ってから、頷く。
透真
「お願いします」
「できれば、俺にもわかる順番で」
女は、静かに答えた。
女
「そのつもりです」




