セナの糸
ランウェイの端に、一人の若者が立っていた。
男にも見える。女にも見える。だが、そのどちらでもないようにも見える。
生成りの服。薄青の布。指先に絡まる白い糸。
彼は、透真を見る前に、透真の輪郭を見ていた。
顔ではない。服でもない。姿勢でもない。
もっと外側と内側の境目のようなものを、見ている。
識が小さく言った。
セナ。
その名を聞いた瞬間、セナは顔を上げた。
少しだけ、不満そうだった。
セナ「識」
識「セナ」
セナ「また、言葉のサイズを間違えた人を連れてきたの?」
透真「初対面でそれですか」
セナは、透真を見た。
正確には、透真の周囲に浮かぶ見えない型紙のようなものを見た。
セナ「ほつれは初対面でも見える」
透真「ほつれ」
セナ「言葉のほつれ」
透真「俺、そんなにほつれてますか」
セナ「かなり」
透真は少し傷ついた顔をする。
識「セナ」
セナ「少し」
透真「今、言い直しました?」
セナ「識に怒られそうだったから」
識「怒ってはいません」
セナ「怒る前の顔」
透真は識を見る。
識は、いつも通り静かだった。
透真「今の顔、怒る前なんですか」
識「違います」
セナ「違わない」
識は、少しだけ目を逸らした。
透真は、その小さな変化を見逃さなかった。
セナは透真の胸元あたりを指差す。
セナ「あなたは、正しい言葉をそのまま着せようとする」
透真「……そう見えますか」
セナ「見える」
透真「それは、悪いことですか」
セナ「悪くはない」
透真「その言い方、この界隈でよく聞きますね」
セナ「でも、危ない」
透真「そこまでセットなんですね」
セナは、指先の糸を軽く引いた。
空中に、薄い型紙のような文字が浮かぶ。
自由。撤退。休む。逃げる。責任。守る。
それぞれが、透真の前で服の断片のように揺れている。
セナ「言葉には寸法がある」
透真「寸法」
セナ「誰に、いつ、どの順番で、どの厚みで渡すか」
識「セナは、言葉の仕立てを見ます」
セナ「識は雑」
識「……」
透真「え、識さんが?」
セナ「正しいものを、正しいまま渡しすぎる」
識は少しだけ黙った。
識「否定はできません」
透真「否定しないんだ」
セナ「あなたも似てる」
透真「俺もですか」
セナ「だから、ほつれてる」
透真は、苦笑した。
透真「今日、俺の評価がずっと厳しいな」
セナ「評価じゃない。採寸」




