ジユウの置き土産
ジユウの姿が、少しずつ薄れていく。
完全に消えるわけではない。
ただ、この場所から少し遠ざかるように、輪郭が薄くなる。
翼から、紙片が一枚落ちた。
透真は反射的にそれを受け取る。
それは、片道切符に似ていた。
行き先は空白。出発時刻も空白。ただ、小さく文字がある。
帰り道 未定。
透真は眉をひそめる。
ジユウは上空から、軽く手を振った。
ジユウ「あなたも、いつか飛びたくなるよ」
透真「そうかもしれません」
ジユウ「その時、今日みたいに足場の話をするのかな」
透真「できれば、したいですね」
ジユウ「真面目」
透真「よく言われます」
ジユウ「でも、嫌いじゃない」
ジユウは笑う。
ジユウ「またね、黒瀬透真」
透真「また会うんですか」
ジユウ「自由は、どこにでもあるから」
透真「それ、便利ですね」
ジユウ「便利だよ。だから危ない」
透真は、少しだけ黙った。
ジユウの笑顔は、軽い。
でも、完全に空っぽではなかった。
透真「ジユウ」
ジユウ「なに?」
透真「あなたは、どこに帰るんですか」
ジユウは、ほんの一瞬だけ目を細めた。
その表情は、笑顔に似ていた。
だが、笑顔ではなかった。
ジユウ「自由に、帰る場所なんて必要?」
透真「必要ないんですか」
ジユウ「さあ」
ジユウは肩をすくめる。
ジユウ「それも、まだ決めてない」
識が、静かにジユウを見る。
識「ジユウ」
ジユウ「なに、識」
識「あなたは、まだ空っぽではありません」
ジユウは少しだけ笑った。
ジユウ「それ、褒めてる?」
識「少しだけ」
ジユウ「識が褒めると、地味だね」
識「すみません」
ジユウ「謝らなくていいよ」
紙片の風が弱まっていく。
ジユウ「じゃあね」
そう言って、ジユウは白い紙片の風に溶けた。
会場には、白い広告だけが残る。
FREE YOUR LIFE
もう縛られない生き方へ。
透真は、手元の紙片を見る。
透真「帰り道、未定」
識「ジユウらしい置き土産です」
透真「いらないなあ」
識「でも、持っています」
透真「捨てた方がいいですか」
識「今は、まだ」
透真「今は、ですか」
識「はい」
識は、紙片を見つめる。
識「自由は、捨てるものではありません」
透真「持ち方が難しいだけ」
識の目が、少しだけ柔らかくなった。
識「はい」
透真は、紙片をスーツの内ポケットにしまった。
それは軽いはずなのに、妙に重かった。




