鳥かごは空ではない
ホールの天井に、鳥かごの幻影が浮かんだ。
扉は開いている。
その向こうには、白い光がある。
空のように見える。
風もある。
紙片も舞っている。
参加者たちは、その光を見上げていた。
誰かが涙ぐんでいる。
誰かが笑っている。
誰かがスマホを閉じる。
誰かがスマホを開く。
透真には見えた。
鳥かごの外側に、さらに透明な壁がある。
空ではない。
ガラス張りの都市。
広告の光。
新しい肩書き。
新しい期待。
新しい不安。
鳥かごの扉は開いている。
けれど、その先が本当に空かどうかは、まだわからなかった。
透真「あれは……」
識「ジユウが見せる空です」
透真「空に見えます」
識「はい」
透真「でも、空じゃない」
識「見えましたか」
透真「たぶん」
ジユウは、鳥かごの前でくるりと回る。
ジユウ「でも、今いる場所よりは広いよ」
透真「それは、そうかもしれない」
ジユウ「それで十分な時もある」
透真「そうですね」
ジユウ「だから、私は悪くない」
透真は少し黙った。
透真「悪いとは言ってません」
ジユウ「じゃあ、何?」
透真「足場がない」
ジユウは黙る。
透真「飛べることと、立てることは違うんだと思います」
ジユウは、紙片の翼を少しだけ閉じた。
ジユウ「立つのがつらい人もいるよ」
透真「はい」
ジユウ「それでも?」
透真「それでも、いつかはどこかに足を置かないと、休めない気がします」
ジユウは答えなかった。
朔が、小さく声を出す。
朔「……休みたい」
透真は朔を見る。
朔「自由になりたいというより、たぶん、休みたいです」
その言葉が落ちた瞬間、紙片の風が少しだけ弱まった。
ジユウの翼から、破れた退職届が一枚剥がれて、床に落ちる。
ジユウ「休むだけで、いいの?」
朔「今は」
ジユウ「飛ばないの?」
朔は、スマホを見た。
まだ、送信されていない文章がある。
朔「飛ぶかどうかは、休んでから決めたいです」
ジユウは、少しだけ目を伏せた。
ジユウ「そっか」
その声は、残念そうにも、安心したようにも聞こえた。
識「黒瀬さん」
透真「はい」
識「今のは、彼の言葉です」
透真は小さく息を吐いた。
透真「……よかった」
ジユウは、開いた鳥かごを見上げた。
ジユウ「休むための自由」
少しだけ、笑う。
ジユウ「それは、少し重いね」
透真「たぶん、自由って本当は重いんだと思います」
ジユウ「嫌だなあ」
透真「俺も嫌です」
ジユウは、初めて少しだけ声を出して笑った。
それは、紙片が舞う音に似ていた。




