ジユウ
ジユウが降りてきた。
白い紙片の翼を広げて、
まるで重力を忘れたように。
近くで見ると、やはり美しかった。
軽い。
明るい。
透明で、どこまでも遠い。
見ているだけで、今いる場所が少し狭く感じる。
ジユウは透真の前に降り立つ。
いや、降り立ってはいない。
足は床に触れていない。
影も薄い。
まるで、最初からどこにも所属していないもののようだった。
ジユウ
「あなた、変なことを言うね」
透真
「よく言われます」
ジユウ
「自由になりたい人に、飛んだ先の話をするなんて」
透真
「必要だと思ったので」
ジユウ
「飛ぶ前にそんなこと考えてたら、誰も飛べないよ」
透真
「そうかもしれません」
ジユウは少し笑う。
ジユウ
「じゃあ、邪魔しないであげればいいのに」
透真
「自由を邪魔したいわけじゃありません」
ジユウ
「でも、止めた」
透真
「止めたというより、聞きました」
ジユウ
「何を?」
透真
「どこへ行きたいのか」
ジユウは、ふっと目を細めた。
ジユウ
「どこへでも」
透真
「それは、どこにも行けない時の言い方にも聞こえます」
一瞬、ジユウの表情から笑みが消えた。
識が小さく息を止める。
ジユウ
「……あなた、嫌なこと言うね」
透真
「すみません」
ジユウ
「謝るなら言わなきゃいいのに」
透真
「それは、ちょっと思いました」
ジユウは、また笑った。
今度の笑みは、少しだけ寂しかった。
ジユウ
「でも、嫌いじゃないよ」
透真
「それは、ありがとうございます」
ジユウ
「ねえ、黒瀬透真」
透真
「はい」
ジユウ
「逃げたことある?」
透真は、すぐには答えられなかった。
ジユウの瞳は、透真を責めてはいなかった。
ただ、遠くから見ている。
透真
「……あります」
ジユウ
「何から?」
透真
「たぶん、自分がちゃんとわかっていたことから」
ジユウ
「ふうん」
ジユウは、片道切符を指先で回す。
ジユウ
「じゃあ、わかるでしょ」
透真
「何がですか」
ジユウ
「逃げる時って、理由を整える余裕なんてないんだよ」
透真は、何も言えなかった。
ジユウ
「痛い場所から離れる。それだけで十分な時がある」
透真
「……はい」
ジユウ
「それでも、足場の話をする?」
透真は朔を見る。
朔は、うつむいている。
だが、送信ボタンから指は離れていた。
透真
「します」
ジユウ
「どうして」
透真
「離れた後に、生きてほしいので」
ジユウは黙った。
識の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
ジユウ
「……真面目」
透真
「はい」
ジユウ
「重い」
透真
「たぶん」
ジユウ
「でも」
ジユウは、白い翼を少しだけ揺らした。
ジユウ
「そういう自由も、あるのかな」
その声は、会場の風よりも軽かった。
けれど初めて、どこかに着地しようとしているようにも聞こえた。




