自由を否定するんですか
朔の声は、大きくはなかった。
それでも、透真には強く聞こえた。
自由を止めるな。
そう言われているようだった。
透真は、すぐに答えられなかった。
辞めるな、と言うのは簡単だ。冷静になれ、と言うのも簡単だ。今は判断するな、と言うのも簡単だ。
けれど、それらの言葉は、朔が今まで何度も言われてきた言葉に似ていた。
もう少し頑張れ。ここが踏ん張りどころだ。成長機会だ。期待している。
透真は、それを口にしたくなかった。
朔
「黒瀬さんは、僕の自由を否定するんですか」
透真
「……否定したいわけじゃありません」
朔
「じゃあ、止めないでください」
透真
「でも、今のあなたは、自由になろうとしているというより、全部から逃げようとしているようにも見えます」
言ってから、透真はしまったと思った。
朔の顔が、はっきり傷ついた。
朔
「逃げちゃ駄目なんですか」
透真
「違います」
朔
「逃げることも自由なんじゃないんですか」
ジユウが、嬉しそうに目を細める。
ジユウ
「そうだよ」
透真は、上空のジユウを見た。
ジユウ
「逃げていい場所はある」
「壊れるくらいなら、飛べばいい」
透真
「それは、たぶん正しい」
識が少しだけ透真を見る。
透真
「でも」
透真は、朔を見る。
透真
「飛んだ先で、何を守るのかは、まだ聞けていない」
朔は、言葉を失った。
ジユウの紙片が、一瞬だけ止まる。
透真
「辞めるかどうかは、あなたが決めていいと思います」
朔
「……」
透真
「でも、自由になるって、全部捨てることだけなんですか」
朔
「僕には、もう何も残ってないです」
透真
「本当に?」
朔は答えない。
透真
「残ってないのか」
「残ってるものを見る余裕が、今ないのか」
朔の指が、送信ボタンの上で止まった。
ジユウ
「意地悪だね」
透真
「そうかもしれません」
ジユウ
「飛ぼうとしている人に、地面の話をするなんて」
透真
「地面がないと、休めないので」
ジユウは、少しだけ笑みを薄くした。
識が静かに言った。
識
「黒瀬さん」
透真
「はい」
識
「今の問いは、少しだけ届いています」
透真
「少しだけですか」
識
「はい」
透真
「じゃあ、少しだけ続けます」
朔は、スマホを握ったまま、うつむいていた。




