飛べばいい
白い翼の影が、ゆっくり形を持った。
現れたのは、若い人物だった。
女性にも見える。少年にも見える。光の中で、輪郭が揺れている。
淡い髪。空色の目。白と薄水色の服。足は、床から少し浮いている。
背中の翼は、美しかった。
だが近くで見ると、それは羽根ではない。
破れた契約書。未返信の手紙。片道切符。折れた予定表。返されていない鍵。
それらが集まって、翼になっていた。
ジユウは、参加者たちを見下ろして笑った。
その笑顔は、あまりにも軽かった。
セリフ
ジユウ
「飛べばいいのに」
声は、会場全体に響いた。
だが参加者たちは、誰も彼女を見ていない。
それでも、その声だけは届いているようだった。
ジユウ
「嫌な場所に残ることを、立派なことみたいに言わなくていいよ」
透真は息を呑む。
少し離れた場所で、朔がスマホを握り直した。
ジユウ
「我慢した時間を、人生の価値にしなくていい」
ジユウは、片道切符を指先でくるりと回す。
ジユウ
「あなたは、もう自由になっていい」
朔の表情が揺れた。
透真
「……聞こえてるんですか、あれ」
識
「言葉としては」
透真
「姿は見えてないのに」
識
「はい」
透真
「それ、相当まずくないですか」
識
「だから、来ました」
透真
「俺たちが?」
識
「はい」
透真
「いや、俺はまだ何もできる気がしてないんですけど」
識は、ジユウを見上げたまま答えた。
識
「今は、見るだけでもいいです」
透真
「見るだけで済みますか」
識
「済まない時もあります」
透真
「でしょうね」
ジユウの紙片が、朔の肩に触れた。
朔は、何かを決めたようにスマホを開いた。




