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長谷川朔
若い男は、片道切符の展示から目を離さなかった。
手元のスマホが震えている。
画面には、仕事のチャットらしい通知が並んでいた。
「明日の朝までに確認お願いします」
「例の件、進捗どうですか」
「期待してます」
「ここが踏ん張りどころです」
「成長機会だと思って」
男は、それらを見て、画面を伏せた。
けれど、またすぐに見た。
逃げたい人間の動きだった。それでも、逃げきれない人間の動きでもあった。
透真は、思わず声をかけた。
透真
「仕事ですか」
男は驚いたように顔を上げた。
男
「あ、すみません。お邪魔でしたか」
透真
「俺も、似たような通知には見覚えがあるので」
男は少し笑った。
男
「そうですか」
透真
「黒瀬です」
男
「長谷川です。長谷川朔」
透真
「朔さんは、こういうイベントによく来るんですか」
朔
「初めてです」
透真
「どうして来たんですか」
朔は少し迷った。
朔
「広告が、ちょっと刺さったんです」
透真
「刺さった」
朔
「もう縛られない生き方へ、って」
朔は片道切符を見る。
朔
「それを見たら、なんか……呼吸が少し楽になった気がして」
透真は答えに困った。
識が静かに朔を見る。
朔には、識は見えていないようだった。




