FREE YOUR LIFE
雨はまだ降っていた。
信号は変わり続ける。
人々は流れ続ける。
広告は、何事もなかったように輝き続ける。
けれど透真には、もう同じ街には見えなかった。
言葉の奥に、何かがいる。
それが人を救うのか。
壊すのか。
それとも、ただ使われるのを待っているのか。
まだ何もわからない。
ただ一つだけ、わかったことがある。
今夜から、自分はもう、
言葉をただの言葉として見ることができない。
大型ビジョンの広告が、次の映像へ切り替わった。
白い空間。
青白い光。
空港のようなロビー。
片道切符。
開いた鳥かご。
風に舞う紙片。
そして、中央に文字が浮かぶ。
FREE YOUR LIFE
もう縛られない生き方へ
足元の水たまりが揺れた。
そこに、白い紙片の翼を持つ誰かの影が映った。
美しい翼だった。
だが、その羽根の一枚一枚は、
破れた手紙や、退職届や、返されていない鍵にも見えた。
透真
「自由、か」
識
「はい」
透真
「昔は、もっと素直にいい言葉だと思ってました」
識
「今も、いい言葉です」
透真
「じゃあ、なぜ危ないんですか」
識
「いい言葉だからです」
透真は、ビジョンを見上げたまま黙った。
白い紙片の翼が、水面の中で一度だけ羽ばたく。
透真
「……その答え、やっぱり嫌ですね」
識
「はい」
透真
「でも、少しだけわかる気もします」
識
「それなら、次に進めます」
透真
「次って、どこですか」
識は、大型ビジョンの下に表示された小さな案内を見る。
白語会 presents
FIRST STAGE
FREE YOUR LIFE
会場:SHIROGANE GATE HALL
識
「自由が集まる場所です」
透真
「自由が集まる場所って、言い方がもう不穏なんですよ」
識
「不穏ではあります」
透真
「否定してほしかった」
識
「でも、必要です」
透真は小さく息を吐いた。
透真
「……わかりました」
識
「行きましょう」
透真
「はい」
少し歩き出してから、透真はふと識を見る。
透真
「識さん」
識
「はい」
透真
「あなた、電車乗れるんですか」
識は、少しだけ黙った。
識
「自動改札が、反応しません」
透真
「そこは反応しないんだ」
識
「少しだけ、不便です」
透真は、今夜初めて少し笑った。
透真
「じゃあ、俺が切符買います」
識
「ありがとうございます」
識は、ほんの少しだけ目を細めた。
それは礼の表情にも見えたし、
見慣れない親切に戸惑っているようにも見えた。
雨の中、二人は交差点を離れていく。
背後の大型ビジョンでは、白い文字がまだ光っている。
FREE YOUR LIFE
もう縛られない生き方へ。




