表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/9

8話 星は乙女の剣に歌う 


闇の根源、『世界喰い』の本体が東の空を覆い尽くしていた。

村を滅ぼし、空を喰らう巨大な影を前に、リノンの掲げる『アウロライズ』は震え、その輝きは今にも消えそうだった。


「……だめ、やっぱり……私じゃ、この剣を……!」


「リノン、貸せッ!!」


ピンク色のワンピースをなびかせ、ライルが前に出た。 かつての大剣ではない。

リノンから奪い取った、細身の魔剣『アウロライズ』を握りしめる。


「……っ!?」


その瞬間、世界が変わった。

リノンが持っていたときは「チリリン」と弱々しく鳴るだけだった剣が、ライルの手に渡った途端、天を貫くような高らかな歌声を上げたのだ。


「熱い……なんだ、この力は……!?」


魔剣から溢れ出す虹色の光が、ライルの銀髪を、そしてフリルだらけの服を黄金色に染め上げる。

『アウロライズ』は、真の主を得た喜びを歌っていた。


「ライル、すごい……! 魔剣が、あんなに輝いて……!」


「理屈はわからん……だが、今なら斬れる!」


ライルは、かつて騎士だった頃には決してできなかった、しなやかな跳躍を見せた。

少女の肉体は、重力さえも味方につける。

闇が牙となって襲いかかるが、ピンク色の裾をひらりと舞う。

ダンスを踊るような剣閃でそれを切り伏せていく。


「これで、終わりだぁぁぁっ!!」

ライルが空中で一閃する。

魔剣から放たれた極大の光が、世界を覆っていた夜を真っ二つに裂いた。

断末魔の叫びと共に、闇が霧散していく。


そこへ、ようやく本当の「朝」の光が差し込んできた。


「……勝った…のか?」


ボロボロになったワンピースの裾を抑え、ライルが膝をつく。

光の粒子が舞う中、魔剣『アウロライズ』が静かにささやいた。

それは、意識の中に直接響く、古の制作者の思念。


『――この剣は、純潔なる乙女の魂にのみ、その真価を授ける。』


「乙女の……魂……?」


ライルは自分の豊かな胸を押さえ、愕然とした。

魔剣がこれほどまでに力を発揮したのは、彼がただ女体化しただけではない。

その心までもが完璧に"乙女"となってしまった証拠だったからだ。


「……じゃあ、なぜ」


ライルは、呆然と立ち尽くすリノンを振り返った。


「リノン、お前は……自分を『女の子』だと言っていた。なのに、なぜこの剣は、お前の手で歌わなかったんだ……?」


リノンは気まずそうに目を逸らし、頬を赤く染めて……。

そして、ゆっくりと自分の胸元に手をやり、そこに入っていた"詰め物(パッド)"を取り出した。


「ごっ、ごめん、ライル。実は、僕……」


「……僕?」


「ずっと憧れてたんだ。女の子になって、魔剣に選ばれるヒロインになることに。だから、女の子の格好をして」


絶句するライル。

つまり、この旅の始まりからずっと、リノンは「女の子に憧れて女装していた男の子」であり、ライルは「本物の男だったのに、完璧な美少女に変身させられた騎士」だったのだ。


「お、お、お前ぇぇぇっ!! 男なら男と言え! 俺をこんな格好にさせやがって!!」


「だって、ライルの方が僕よりずっと似合ってるし……それに、魔剣も『こっちが本物だ!』って言ってるよ?」


「うるさい! この……このド変態女装野郎!!」


朝日の中、偽ヒロインを追いかけ回すライル。


星なき夜は終わった。


けれど、ライルが"男"に戻れる日は、まだまだ遠そうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ