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5話 騎士の夜明けは、フリルの味がした


逃げ延びた先は、古い森の中だった。

村が燃える赤い光が、遠くに見える。


「はぁ、はぁ……ここまで来れば、もう……」


ライルがその場に膝をついた。 ドサッ、と重い音がする。



「ライル!?」


あたしは抱えていた子供を草の上に下ろし、ライルに駆け寄った。

彼の顔色は、夜の闇よりも悪かった。

肩の傷――さっきの『世界喰い』に受けた傷から、黒いもやのようなものが溢れ出している。


「くっ……毒が、回ったか……」 ライルが苦悶の声を漏らす。


「リノン、離れろ。俺まで……バケモノに変わる前に……」


「そんなの、させない!」


あたしは『アウロライズ』を抜いた。

折れた剣を握りしめたままのライルの手の上に、自分の手を重ねる。


「お願い、アウロライズ。彼を助けて。あのときみたいな悲しい別れは、もう嫌なの!」


魔剣が、チリリンと激しく鳴いた。

あたしの願いに応えるように、眩い光が溢れ出す。

それは今までで一番強く、温かい輝きだった。


「ぐ、あぁぁぁぁぁぁっ!?」


光が傷口に染み込むと同時に、ライルが絶叫した。

黒いもやが浄化されていく。 でも、様子がおかしい。


光の中で、ライルの体が――縮んでいく?


バキボキと骨が組み換わる音。


ゴツゴツとした筋肉が削ぎ落とされ、柔らかな曲線へと作り変えられていく。

低かった唸り声が、徐々に高く、鈴のような音色へと変わる。


「え……嘘……?」


光が収束したとき。

そこに倒れていたのは、黒い外套を着た大男ではなかった。


サイズの合わなくなった黒い外套に埋もれるようにして、ひとりの"少女"が倒れていた。



銀色の長い髪。 雪のように白い肌。

そして、かつてライルが悔やんでいたあの少女

――ステラに瓜二つの顔立ち。


「ん……ぅ……♡」


少女が、ゆっくりと目を開ける。

その瞳だけは、ライルと同じ黒鉄色だった。


「……おい、リノン。なんで俺を見下ろしている?」

少女の口から出たのは、可愛らしいソプラノボイス。

でも、口調は完全に不機嫌なライルのそれだ。


「……ライル、なの?」


「当たり前だろ。毒は抜けたようだが……なんだか体が軽い。それに、服が重い……」


ライルが身を起こそうとする。 その瞬間。


ズルッ~。


あまりに華奢になった肩から、ブカブカになったインナーシャツがずり落ちた。

露わになる、白くなめらかな鎖骨と、慎ましやかな胸の膨らみ。


「ひゃっ!?」

あたしは思わず変な声が出た。


「あ?」 ライルは自分の胸元を見下ろし――

そして、硬直した。

震える手で、自分の顔を触り、長い髪をつかみ、

そして自分の股間を確認し(女の子なら、そんなことしないけど!)、


「な、な、な……」


顔を真っ赤にして(その仕草が猛烈に可愛い!)、森中に響くような高い声で叫んだ。


「な ん だ こ れ は ぁ ぁ ぁ ッ !!!」


森の鳥たちが驚いて飛び立つ。

あたしは、呆然としながらも、作家としての本能(フェチ)が疼くのを感じていた。


「……可愛い」


「あぁ?! 今なんて言ったリノン!」


「ううん! なんでもない! それよりライル、その服じゃ歩けないよ。とりあえず……」


あたしはリュックの中身を思い出す。

着替え用に入れておいた、予備の服。

そう、あたしの趣味全開の、フリルがついた可愛いワンピース。


「……着替えないとね?」


「待て。その目はなんだ。そのニヤけた顔をやめろ! 俺に何を着せる気だ!」


ライル――いいえ、美少女ライルちゃんが涙目で後ずさる。


星なき夜でも、なんだかキラキラと輝いていた。


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