星なき夜のアウロライズ 第四話 夜の落とし物
「ぼうっと突っ立ってないで、ライル」
ライルを押しのけて、リノンが前に出た。
素早く魔剣を振るう。
歌う剣が、今までにない高い音を放つ。
――チリリン、チリリン。
祈りのような、悲鳴のような音。
「行け……!」
魔剣から放たれた淡い光が、怪物の胴を貫いた。
一瞬、夜が裂けた。
だが、それだけだった。
闇はすぐに縫い合わされ、
無数の目が、こちらを見下ろす。
( 勝てない…? )
理解が、恐怖より先に来た。
「リノン! 撤退だ!!」
「でも、村の人が――!」
「だが、もう……間に合わん!」
夜の怪物が巨大な鷲のような翼を広げる。
影が雨のように降り注ぎ、家々が潰れ、
叫び声が、途中で途切れていく。
そのとき。
「……たす、け……」
瓦礫の下から、細い声。
リノンは、考える前に走っていた。
燃え残る家屋。
崩れた石壁。
小さな手。
瓦礫を引き剥がすと、
煤だらけの子供が、震えながらこちらを見ていた。
「大丈夫。抱きしめて」
次の瞬間、影の触手が伸びる。
ライルが割り込んだ。
剣が砕ける音がした。
「走れぇぇぇっ!!」
リノンは子供を抱え、走った。
背後で、夜が吠える。
丘を駆け上がり、
闇の境界を越えた瞬間、怪物は追ってこなかった。
ただ、満足そうに、夜の底へ沈んでいった。
――朝は、来なかった。
振り返ると、そこに村の燃えた跡だけ。
子供が、あたしの胸元で泣いた。
ライルは、折れた剣を握りしめ、
星のない空を見上げていた。
「……これが、現実だ」
つぶやく低い声が聞こえる。
「それでも、行くか…?」
あたしは、子供を抱き直す。
「行くさ…!!」
震えながらも、答えた。
「この子が生きてる。それだけで、意味はある」
『アウロライズ』が、かすかに鳴った。
今度は、確かに。
――夜は深く、世界は冷たい。
それでも、失われなかった命が、ここにある。
旅は、もう戻れないところまで来ていた。




