13.邂逅! エリーの両親
エリーは、両親の顔を見て、息をのんだ。
バックアップデータから復活するだろうということは予想していたが、まさかこんなに早く蘇って、しかも出くわしてしまうとは思ってもいなかったからだ。
それは、向こうも同じだった。エリーの両親はピクリと動きを止め、カメラの瞳が微妙に震えた。口元がかすかに開くが、すぐに閉じる。その動作は、まるで『会いたかったのに、どう声をかければいいのかわからない親』のようでもあった。
「エリーどうしてここに……」
不用意に近づいて来ようとするエリーの両親の前に、レイは割り込む。
無駄のない動きで銃を構えると、バチンッとセーフティーが解除される。
「お前ら、自分の娘に何をしようとしたのか覚えているな?」
いつもとは全然違う冷たい声だった。
無機質で、情け容赦のない響きを帯びている。
「それは……」
エリーの父親は言いよどみ、カメラの瞳が揺れる。
明らかに覚えている表情だった。
レイは、銃口を傾け、カメラアイに見せつけるように威嚇する。
「お前らは、戦闘型じゃないだろう。もう、この銃の威力はわかってるな」
「ああ……」
エリーの両親は、ゆっくりと両手を上げた。
その反応を見て、レイは大きく息を吐きながら、銃口をさげる。
「俺は別に機械人間は嫌いじゃない。機械人間とだって、会話して意思疎通ができると思っている。ただ力ずくでくるって言うのであれば、こっちだって力ずくだ。容赦はしない。それに、お前達だってエリーに死んで欲しいわけじゃなくて、幸せになって欲しいだろう」
レイの言葉にエリーの両親は、お互い顔を見合わせた。それから、ゆっくりレイの目を見て、辺りの様子をうかがう。
「……ここでは、あまりに目立つ。監視の目がどこにあるかわからない。家の中にはいってもらえないだろうか」
エリーの父親は、学校の傍の家を指さす。
「あの家は?」
「……元々の私の家です」
答えたのはエリーだった。
「アルファ、監視カメラや盗聴器の類いはあるか」
レイの腰についていたタブレット端末から、アルファが飛び出すと、いつものように解析光線を照射始める。
「マスター。確認できません」
「よし。話を聞こうか」
◇ ◇ ◇
エリーの家は、一見するとごく普通の家だった。
壁には絵画が飾られ、調度品も上品なものが飾られている。
ただ、生活感がないほど整然としていて、どこか人工的な雰囲気が漂っている。
「もうしわけありません。お茶も出せずに……もうエリーは帰ってこないだろうと思い、食品関係は処分してしまったのです」
よく見ると、冷蔵庫や調理器具といった、食に関するものが一切おかれていなかった。
「まあ、気にするな。どうせお茶なんか俺は飲まないからな」
レイはそう言うと、自分の白衣からエナジードリンクを取り出した。
「私は、エリーの父親……から転生した機械人間ジョン、それから妻のミネルバです」
ジョンの紹介で、ミネルバも頭をさげる。
「ところで、あなたは何者ですか?」
エリーの両親は、あらためてレイに尋ねた。
「俺はレイ。ホムンクルス研究の第一人者であり、俺自身がホムンクルスだ」
プシュっとエナドリのプルを開けながらレイは答える。
「私たちは、ホムンクルスは人とは違う化け物だと聞いています」
「化け物なんかじゃない。人工培養技術で、蘇生した新人類とでもいえばいいか。お前らとは別の進化を遂げた新しい人間だよ。まあ、俺のことはいい」
レイは、エナジードリンクを一口飲んでから続ける。
「エリーが十歳かそこらなんだから、お前らだって機械人間になったばかりだろう。どうして、機械人間になったんだ?」
「はい。私が病気……癌に冒されまして、寿命数年と言い渡されました。それで普通の人間でも機械人間になることができれば永遠の命が得られるとのことだったので、ここに移り住んだのです」
「よくある理由だな。でもどうして嫌がる娘を無理やり機械人間にしようとしていたんだ?」
「ここへの居住条件は、全人類機械人間化計画に所属すること。つまり、子供も含め、家族全員が機械人間になることそれだけです」
エリーの父親には、後悔の念が浮かんでいた。
「私は、自分の寿命が短いこともあり、エリーの意志を確認せずに、入団しました。もし約束を違えば、家族全員スクラップにされて、バックアップデータも消されてしまいます」
「ああ、それで、あの墓か」
レイとエリーは、機械人間都市に来る前に訪れた、機械人間たちの墓を思い出した。
永遠の幸福とは真逆の、永遠の不幸を体現したような場所。
あそこは、この世の地獄のような場所だった。
「よくお前らはスクラップにされなかったな」
「第三者に壊され……つまり、あなたに壊されたので、意志に背いたとはみなされませんでした。新しい体を与えられた後、私たちは、エリーを完全に見失ったと報告し、今も探索中ということにしています。エリーは上層部も発見できないとのことです」
「ああ、内臓されていた発信器を壊しておいたからな」
「ありがとうございます。エリーは、上層部に見つからない限りは、大丈夫でしょう」
「よかったな」
「はい」
エリーもほっと安堵の息を吐いた。
「ただ他の子達は、そうもいきません。ここ最近では、エリーの例が発生したため、機械人間になる前の改造も禁止されてしまいました。自力でここから逃げ出すことは不可能でしょう」
「よし。子供達をさらうか」
「先生。判断が早いです。そして、結論が酷い」
「ダメか?」
「いえ、お願いします」
「だが、それでは、レイさん。あなたが、機械人間に狙われることに……」
「なぁに、気にするな。どうせ喧嘩売りにここまで来たんだからな」
レイは、足につけていた端末を取り出すと、アルファを起動した。
「アルファ、そっちの進捗はどうだ?」
「はい。マスター、回収完了です」
「子供達の発信器を破壊して、機械人間都市から離脱してくれ。そうだな。ルミシアにでも預けておけば、よろこんで面倒見るだろう」
エリーは、面倒見が良さそうだったルミシアさんを思い出す。
「はい。わかりました」
「先生、私たちはどうするんですか?」
「本拠地乗り込んで、敵の親玉ぶっ倒しに行くぞ。アルファが逃げ出す間、こちらに注意を向ける」
「一応、話し合いの余地は……?」
「泣き叫ぶ子供達のことガン無視して機械人間にしてるしな。まあ、話し合う余地はないだろう」
レイは、ぐいっとエナジードリンクを飲み干して、大きな声で言った。
「よし。喧嘩売りに行くか!」
「はい。私も頑張ります」
「エリー……」
心配そうに見つめるエリー両親。
なにかを言おうとするも、自分たちにそんな資格はないのだと、うなだれてしまう。
そんな両親を見て、エリーは声をかけた。
「じゃあ……パパ、ママ、私は行くね」
「エリー、あなた、私のこと、ママと呼んでくれるの?」
エリーの母親は、両手で口をおさえた。
「エリー、私たちのこと赦してくれるか?」
「まあ、事情はきけたから、病気だったのなら仕方ないかなって思った」
「なら、私達と一緒に……」
エリーは首を横に振る。
「でも、私は機械人間にはならないよ。今は、手足はこんなだけど、先生に治してもらって、普通の人間として生きていく」
「そうか」
「でも、パパとママのこと、やっぱりパパとママだと思ってもいい?」
「もちろんだ」
「ああ、エリー愛してるわ」
三人は抱きしめあった。
レイは、そんな三人を微笑ましく思いながら、アルファに呟く。
「さあ、作戦スタートといこうじゃないか」




