14.出陣! 銃撃戦
子供たちの発信機を除去すると、機械人間都市の様子が慌ただしくなった。
「本格的に厳戒態勢が敷かれたみたいだな」
レイは、呑気に準備運動を始める。
心配して見送りに来たエリーの父親ジョンに、レイは話しかけた。
「それで、その全人類機械人間化計画というのは、リナの仕業なのか」
「リナとは、何者のことですか?」
「お前らが言う、女神リナーシャのことだ」
「ええと、そうですね。私たちは、女神の意志による計画だと伝えられましたが、真実はわかりません。昔から生きている先輩機械人間の方々は、かつてはそんなことなかったと言っています。最近生まれた、私たちは女神の声を直接聞いたことはありません」
「そうなのか?」
「はい。すべて女神の言葉は勇者様から伝えられます。もしかしたら、女神様は勇者に捕らわれているのではないかと……こんなこと、大っぴらにいうとスクラップにされそうですが」
「真意は、リナに直接聞いてみるしかないな」
レイが、考え事を始めると、端末のアラームが鳴る。
「マスター、子供達全員キャンピングカーに乗りました」
アルファが、無機質ながらも綺麗な女の子の機械音で報告を行う。
「了解だ。俺たちが機械人間たちの注意を引いている間に脱出しろ」
「承知しました」
ふわりとアルファが、キャンピングカーに飛んでいく。
キャンピングカーのエンジンがけたたましく鳴り響く。
再度、特殊迷彩でトラックに変わり出発したキャンピングカーを見送ると、レイは頷いた。
「よし、それじゃ、俺たちも敵の本拠地にむかって出発するぞ」
「はい。わかりました」
レイの言葉に、エリーもうなずく。
「レイさん、娘をよろしくお願いします」
「ああ、任せておけ。絶対怪我もさせないさ」
エリーの父親は、頷いた。
「それで、エリー。本当にお前もレイさんについて行くのか?」
「うん。これはあくまで私が始めた戦いで、先生にはお手伝いしてもらっているだけだから」
グッと拳を握りしめて、決意を固めるエリー。そんなエリーにレイは口を出した。
「いや、無理しなくても、別にいいんだぞ。俺は、一人でも余裕で戦えるからな」
レイは、びっくりするぐらいのお人好しを発動させた。
「……その場合、先生は私をどう評価しますか?」
レイは、指を立てて説明する。
「そりゃ、所詮、砲弾にしかならない。役立たずの女だったなって」
そして、やっぱり人でなしだった。
「絶対、最後まで戦います!」
レイの回答を受けて、絶対最後まで戦い抜いてやると心に誓うエリーだった。
◇ ◇ ◇
レイとエリーは、警報が鳴り響く機械人間都市を走り抜ける。
エリーは強化スーツに変身し、完全に戦闘態勢に入った。
「結局、先生はどうやって全人類機械人間化計画を解決する気なんですか?」
「敵の親玉を倒せばいいだろう」
「一人倒したところで、止まらなければ……」
「全員倒せばいいだろう」
「でも、機械人間はバックアップから何度でも蘇るんですよ」
「何度だって、倒せばいいだろう」
「相手は無限に動き続けるのに」
「俺だって、エナドリ飲み続ければ、無限に動き続けるぜ!」
頭はいいはずなのに、なにもかも力ずくの根性論で解決しようとしているレイにエリーは呆然とする。
「ダメだ。この人、なんとかしないと」
そして、なんとかするのが自分のみしかいないことに気づいてため息をついた。
「ふふふーん♪」
レイは、唐突に鼻歌を歌い始めると、白衣から注射器を取り出し、自分の腕にブスブス刺し始めた。
「先生……本当は、聞きたくないんですけど、その注射器なんですか」
レイは、腕に注射器を何本も刺していた。
「戦闘用の強化薬だな。いわゆるオーバードーズってやつだ」
レイは、体にささった注射器を指さしながら説明を続ける。
「まずは感覚強化薬、五感を極限まで研ぎ澄ませる薬だ。それから、こっちは、骨格硬質化薬。脳を守る骨格などを鋼以上に強化する」
レイは頭をコンコンと叩いて見せた。骨とは思えない鋭い金属音が響いた。
「瞬間培養薬、どんな部位が失われても、瞬時に回復する」
レイは、ナイフを取り出すと、試しに腕を切りつけてみた。
ブクブクと、肉が盛り上がり、物の数秒で元通りになる。
「すげぇだろう。どうだ、エリー感想は?」
「うん。グロい」
エリーは、思ったことをそのまま言った。
エリーの言葉に、レイはニヤリと笑って見せる。
「よし、エリーお前も、ホムンクルスにしてやろうか?」
レイの言い方は、完全に悪役のそれだった。
それに対して、エリーは首を横に振る。
「絶対嫌です」
エリーはノーといえる女である。
というか、ノーといわないとレイの悪気のない理不尽を永遠に浴び続けると、経験から悟っていた。
「そうか。残念だ。気が変わったら、いつでも教えてくれ」
「先生、いつもは強化薬使わないってことは、それなりにリスクはあるんですよね?」
「まあ、薬だからな。体の負担が大きい。といっても、ホムンクルス体の交換頻度があがるぐらいだな。俺には大したことはない」
「でも、先生は無限に武器をアポーツで呼び出せますよね?」
「お前、気づいてなかったのか? 無から有を作り出しているわけじゃないぞ。武器はキャンピングカーに載せてるものを引っ張り出しているだけだ。それに、正確にアポーツするためには正確な座標指定がいるからな。送付側に専用の機械がいるし、アルファのサポートもいる。キャンピングカーと距離があって、移動してるとうまく作動しないんだよ」
「一応、そういう制限があったんですね」
「戦闘は、準備が大切だぜ。ほらみてみろよ」
レイは、いつも着ている白衣の裏側をエリーに見せた。
「うわぁ……」
エリーは絶句した
そこには、無数の注射器が整然と並んでいた。
「他には、どんな効果の薬品があるんですか?」
「まあ、見てればわかるさ。ほら敵がやってきたぞ」
レイが、指さす方向を見ると銃を構えた機械人間たちが押し寄せてきていた。
銃声が鳴り響く中、エリーは、力強く踏み込み、敵である機械人間に渾身の一撃を殴り込んだ。
ゴシャァッ!!
機械人間たちは、弾丸のような勢いで突っ込んでくるエリーになすすべなく吹き飛ばされていく。
「やるじゃないか。エリー」
レイは笑いながら言う。
エリーは、自分が思った以上に戦えるていることに驚いた。
(……でも、そうだよね)
「あれだけ敵に撃ち込まれれば、嫌でもなれますよ」
エリーは自分のスーツの頑丈さを信頼していた。
自分の意思で、突っ込んでいけるだけ、全然ましであった。
「ところで、敵の本拠地、勇者が住んでる勇者城ってどこですか」
「まあ、あれじゃないか」
レイは、機械人間都市の中央で、大きくそびえたっている城を指さした。
周囲の無機質な機械都市の中で、歪な存在感を放っていた。
「なんか魔王城なら物語で聞きますけど、勇者城って聞き慣れないですね」
「へぇ。どんな物語なんだ?」
「昔悪い魔王が世界征服を企んでて、勇者がそれを討伐したって話です。長生きな先生なら実話かどうか知ってるんじゃないですか?」
「いや、世界征服を企む悪い魔王だなんて、初耳だぞ」
「やっぱり、ただの物語ですかね」
その時、銃弾がエリーの頭に直撃した。
「痛っ!」
反射的に言ったが、実際はまるで痛くない。ただの口癖のようなものだった。
頑丈なスーツがしっかり弾丸を弾いてくれている。
その隣で、レイは、ひょいひょい銃弾をかわしながら、エリーに言う。
「まあ、昔話なら、俺とリナが普通の人間だった頃の話をしてやろうか」
「先生の昔話は、ちょっと長そうなので、銃撃戦してないときにおねがいしてもいいですか?」
エリーは必死に銃弾を躱していながら、なんとかそう言った。
「そう。それは1000年ほど前……機械人間もホムンクルスも存在していなかった頃……」
「だから、ちょっと先生は人の話を聞いてください!」
エリーの叫びを無視して、レイの語りは続くのだった——。




