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 小一時間、飲み食いして冷麦ひやむぎを出ると、外はもうすっかり暗くなっていた。支払いはもちろん研究室払いで、教授が最後に支払って店を出た。グデングデンというまでではないものの、ほろ酔い気分の保は、時折り足がもつれた。他の三人も程度の差こそあれ似たり寄ったりで、思い思いに帰っていった。

「お~い、今、帰ったぞ」

 マンションに辿りつくと、酒の酔いも手伝ってか、自分の言葉が気分よく保に響いた。まるで妻がいて、その妻に語りかているような心地いい気分だった。

「は~い!」

 沙耶はこのとき、最良の出迎え方をプログラムの中から選択していた。こういう場合の大部分の主婦はお冠で夫を出迎える。その迎え方の家庭に与えるマイナス効果は絶大で、世の亭主どもは妻の言葉によって、存在場所のない現実を知らされ、いっそう家庭環境に嫌悪感を増大させる…というデータから、沙耶の思考回路はその回避策を瞬時に探し出したのである。その①が、猫なで声で夫を魅了する。今回の場合は、この選択枝だった。他にも②、③、④、⑤…と対策データが入力されていた。

「ちょっと、軽いものが食べたいな。あるか?」

 この言い方も夫、そのものである。保は内心で北叟笑ほくそえんだ。

『と、思って、準備してあるわ。和、洋、中どれでも』

 沙耶の顔の表情は優雅柔和な笑みで、感情プログラムが働いていた。通常の夫婦間に生ずる人間関係だと、殺伐感が漂うが、これを回避する思考回路の②が働いたのだった。

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